21 約束 【21-3】

【21-3】

「どうされたのですか。ずいぶん、顔色が悪いようですが」

「……いえ……」


数年前から、急に拓の態度が変わったことは気になっていた。

以前から、愛想のある方ではなかったけれど、

今のようにけんかごしに話す事はなかったのに、それが急に変化した。

伯父もどうしてなのか理由はわからないと言っていたが、

もし、これが原因なのだとしたら、納得出来てしまう。



『僕の父親が森中の伯父』



「歩さん」

「はい」

「内線で確認を取りましたが、営業部の方には戻られていないようです。
携帯を鳴らしてもらうようにも言いましたが、出ないようだと」


拓……


「そうですか」

「歩さんが、お話したいことがあると言うことは、伝えておきますので。
とりあえず、社長をお待ちいただけますか」


僕は、そのまま頷いた。

伯父に、全てを話せば、知りたいことは全て話してくれるかもしれない。


「すみません、慌ててしまって」

「いえ……それでは失礼いたします」


延岡さんが社長室を出た後、また静かな空間が戻ってきた。

問題集をあらためて見てみるが、頭の混乱は収まらず、問題など何も入ってこない。


「はぁ……」


『知らないことを知る』というのは、そういうことなのかもしれない。

思い描いている様子と、事実は、必ずしも一致しないのだ。

僕の親は、何があっても亡くなった二人で、

これからも祖母と一緒に生活することも変わらない。



ただ、自分がどういう経緯でこの世に生まれたのか、

それを知るだけ……



何があっても、思うような結果が出なくても、悩むことはしないと、

そう彼女に約束した。



何があっても、僕は僕なのだと、そう何度も言い聞かせる。

延岡さんの話どおり、伯父は、およそ10分後に姿を見せた。





「悪かったな、遅れてしまって」

「いえ、忙しい時期に、どうしても会って欲しいと願ったのは僕のほうですから」


そう、真実を知りたいと願ったのは僕なのだから。


「いや、いつも遠慮がちなお前が、頼ってくれるのは嬉しいことだ」


伯父はいつも優しかった。

それは母を亡くした僕に対しての同情もあるのだろうと、そう思ってきたけれど。


「さて、それでは早速、話を聞こうか」

「はい」


僕は、家から持ってきた『事故の報告書』をテーブルに置いた。

中から紙を取り出し、資料を前に置く。


「報告書……」

「はい。父と母が亡くなった、あの事故の報告書です」

「あぁ……」


この資料が僕の目に留まることがなければ、また運命は変わっていたかもしれない。


「夏に、祖母が急に入院することになって、箪笥の引き出しの奥から、
僕はこれを見つけました。亡くなった父の血液型は、『AB』なこと、
母の血液型が『A』なことを、その時、初めて知りました」


可能性のない、一つのデータが僕に現実を突きつけた。


「僕は……後藤克信と、後藤景子の息子ではなかったのだと、知ったんです」


自分では、冷静に言葉を押し出しているつもりだったが、

気付くと、手のひらにはじっとりと汗をかいていた。


「祖母に聞きましたが、どうしても僕に真実を言えなかったようです。
僕も、祖母を問い詰めるのはイヤだったので、社長たちに聞きました。
奥さんと母は、とても仲がよかったので、知っていることは教えて欲しいと、
お願いしたんです」


二人は真剣に答えてくれた。


「ショックでした。そんなことは一度も疑ったことがなかったので。
でも、母が子供を望みながら、体の状態でどうしても無理だったこと、
僕を引き取ることになって、とても嬉しそうにしていたことを、奥さんから聞いて、
今更ながら、育ててもらったことに、本当に感謝しています」


感謝し、今でも一番大切な人たちだという思いは、何も揺るがない。

戻れるものなら、生きている頃に戻ってもらって、親孝行してやりたいのが、

僕の本音だ。


「それだけで終わろうと思っていました。でも……気持ちが治まらなくて。
遥さんのお父さんにお会いしたり、実習生の親の話を聞いたりしていたら、
自分の出発点がどういうところだったのか、どうしても知りたくなりました」


伯父からは、まだ何も語られていない。

僕が言いたいことは、理解してくれているはずだ。


「奥さんも、母からいきさつは聞いていないそうです。自分たちにとっては、
僕という存在だけがあればよくて、どこから来たかなどということは、
どうでもよかったからと……。なので、ここへ来ました」


真実を、知っている可能性があるのは……





あなたしかいない。





「教えてもらえませんか、僕がどういう経緯で、後藤の家に行ったのか」


自分の望む形でなくても、悩んだりはしないと、彼女に約束した。

どんな話であっても、隠さず報告すると、そう誓ってきた。




彼女の全てを、受け止めながら……




「そうか……」


僕の話を聞き続けていた伯父は、そこでようやく声を出してくれた。



【21-4】

『真実』を前に、苦しむのは、歩だけではなくて……
『なぜ』 『どうして』の思いは、ただ一つの願いに、変わり始める。
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