21 約束 【21-6】

【21-6】

「おじ様には、私から連絡しておいた。
ここに来るって電話をくれたから、大丈夫ですよって」

「あ……ごめん」


遥さんは、炊飯器からご飯を取り出すと、ボールに入れて、しゃもじでご飯を動かした。

美味しそうな匂いが、僕の空腹に、要求のサインを送る。


「中身は何がいいですか」

「いいよ、何でも」

「そういう中途半端なリクエストは、受け付けられません。鮭、昆布、梅干、
あと……」

「そのまま握ってくれたら、それでいいよ」

「そのまま?」

「うん……」


小さなコンロにかけてある鍋には、お味噌汁が入っている。

僕が伯父のところを飛び出したことを知り、遥さんはきっと待っていたのだろう。

この気持ちだけで、僕は胸いっぱいになる。


「どういう結果が出ても、悩まないって約束したのに、飛び出したりして、
みっともないね」

「……そんなことない」

「期待なんかしていないはずだったのに、なぜだかわからないけれど、
耐えられなくて飛び出してた」

「うん……」


夏の頃、炊飯器の使い方がわからなくて、いびつなおにぎりを作り、

恥ずかしそうにしていた人と同じだと思えないくらい、

手際よくおにぎりがお皿に増えていく。


「よし、出来た」


遥さんは嬉しそうに手を洗い、小さなテーブルにおにぎりとお味噌汁を運んでくれた。


「色々と作ってみたの。とりあえず真ん中に置くから、好きなものを取って食べて」

「うん」


僕はお願いした塩むすびを手に取る。

炊き立てのご飯を握るのは、結構大変なはず。


「ごめんね、もっと色々と作ってあげたいけれど、すぐに出来るほど、
上達していないの。だから……」

「十分だって。まさか、食べられると思っていなかったからさ」


それは本当にそう思う。

迎え入れてもらえるだけで、それだけで十分だった。


「あのさ……」

「話は後にしましょう。まずは食べて。せっかく温かいご飯なのだもの。
一番美味しい時に食べてほしいから」

「……うん」


遥さんの言うとおり、とにかく何も言わずにひとつめを食べた。

のりの香りと、お米の甘さが、しっかりと伝わってくる。

お味噌汁には、ネギがたっぷり入っていて、寒い場所から来たことなど忘れるほど、

心も体も温まった。


「あ……奥さんにも連絡」

「しておいたから……」

「あ、そうなんだ」


何もかも、彼女が上を行っている。

年齢はいくつ差があったっけ?

なんだか、急におかしくなった。2つ目は昆布のおにぎりを選び、

それもあっという間にお腹に納めていく。


「うまい……」

「本当?」

「うん。あの、岩みたいな握り飯を作っていた人と、同じだと思えないくらい」

「ひどい」


自然と笑えていた。頬が勝手にゆるんで、気付くとまた、おにぎりに手が伸びている。

僕が悩んで迷っていると知り、心配してくれる人はたくさんいた。

色々あるけれど、今はとても充実していて、幸せであることは間違いない。


「僕は、養子斡旋団体から引き取られたって、伯父が言っていた」

「……うん」

「そういう人たちの間では、互いに後を引かないよう、
情報を開示しないことになっているんだって。だから、本当の親が誰なのか、
伯父も知らないって」


遥さんは、あまり深刻そうな顔をせずに、小さく頷いた。

僕は、お味噌汁の残りを飲み干し、箸をおく。


「ニュースとかで聞いていた話だし、現実にあるのだとはわかっていたけれど、
まさかさ、自分がそういう中にいた人間だとは思わなかったから、
なんだかガクッと力が抜けてさ……」


僕なりに、言い方はおかしいかもしれないが、理想はあった。

事情があって育てられなかったけれど、それは納得できるようなもので、

親はどこかでしっかり頑張ってくれているものだと、思い込んでいた。


「その団体はもうないから、聞くことも出来ないって伯父に言われて、
なんだか逃げられているような、気になったんだ」

「逃げた?」

「うん、その場の話を付け加えて、僕の気持ちをはぐらかせているような……」

「そんな……おじ様はそういう人ではないでしょ」

「そう、そんな人ではないんだ」


そう、伯父は……僕が知っている伯父は、いつも正々堂々としている人だった。

婿養子として『MORINAKA』を引き継いだけれど、

今の位置に押し上げたのは、伯父の力であることは間違いない。


「ねぇ、まだ食べられるでしょ? しっかり食べて」

「うん……」


僕がここまで気持ちを乱したのは、その話が単独だからではない。


「拓がさ、くだらないことを言うから、それで……」

「拓ちゃん?」

「うん……」


そう、あいつがあんなことを言わなければ、伯父の態度を怪しむこともなく、

僕は話だけを受け入れていたかもしれない。



「伯父が……僕の父親だって」



それまで明るい笑顔を見せていた遥さんが、さすがに顔色を変えた。



【22-1】

『真実』を前に、苦しむのは、歩だけではなくて……
『なぜ』 『どうして』の思いは、ただ一つの願いに、変わり始める。
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