22 片隅の記憶 【22-3】

【22-3】

「おぉ!」

「おや……」


メインもあり、色も黄色や緑が入っていて、見た目はそれなりの状態だった。

弁当箱は2段重ねになっていて、下にもしっかりとご飯が入っている。


「味は? なぁ、歩」

「どう?」


僕は鶏肉を箸でつかみ、口に入れた。

味もしっかりついていて、美味しい。


「大丈夫ですよ、上達したんです」

「ほぉ……」


赤石さんの手が、蓋を置いた場所に伸び、1枚のメモをつかんだ。

僕が取り返そうとすると、素早く逃げられる。


「『今日は私も一緒のお弁当です。足りなかったら言ってね』だって。
ウキャー……かわいいじゃないの!」

「赤石さん」

「まぁまぁ、歩」

「返してください」


いつもは逃げられることなどないのに、

こういう時の赤石さんの反射神経は異常なほど素早い。

栗丘さんと奥さんの笑い声が事務所内に響く。


「おい、『MORINAKA』の車、出来ているか」

「はい」

「2時には来られるそうだ、チェックだけは終えておいてくれ」

「はい」



『MORINAKA』



伯父や拓が来ることはないだろうが、少し気が重くなる。

社長の方に気を取られた赤石さんから、やっとメモを取り返した。


「あ……」

「全く、人のものを勝手に読まないでください」

「『歩、お礼のキス、待ってます』だって」

「は? そんなこと書いていませんよ」

「ストーブで当てて見てみろ。あぶり文字だ、あぶり文字」

「燃えますよ」

「燃えちゃえ! こんな幸せな手紙」


赤石さんはそういうと、どうして自分の彼女は弁当を作らないのかと、

見当違いに悩みだす。


「言えばいいだろうが、作ってって」

「言ったら怒られます」

「どういう付き合いだ、お前は……」


僕は彼女のメモを読み直し、壁にかかった時計を見る。

時間は12時20分。今頃同じものを食べているのかと思うと、なんだか口元がゆるんだ。





『MORINAKA』の到着は2時。時計は10分前になった。


「おい、大変だ、哲治さんが来るぞ」

「は? どうして」

「なんだか車の調子があまりよくないから、ここで営業車と乗り換えていくらしい。
今、電話があった。30分くらい遅れるけれど、お願いしますだと」

「あらまぁ……」



伯父が来る。

車を取りに来るだけだと思いながら、この場所を離れたくなる。

年末に社長室を飛び出してから、何も話してはいない。





13時10分。



13時15分。





事務所の中で眠っている『パール』に声をかけると、

あいつはすぐに飛んで来た。僕はリードをつけ、そばにいた栗丘さんに声をかける。


「栗丘さん、ちょっと散歩してきます。なんだか雲行きが怪しいので」

「ん? おぉ……そうだな。夕方には降るかもな」

「はい」


奥さんに見つからないように、僕は工場から出た。

奥さんに会えば、伯父が来るのだから後で行けばいいと言われるだろう。

もう、こだわらないと約束したはずなのに、まだひっかかりは抜けていない。

今、伯父の顔を見て、今までどおりに挨拶をする気持ちにはどうしてもなれなかった。





30分後、工場の納車場所に、『MORINAKA』の営業車は無くなっていて、

代わりに、伯父がよく乗っている車が、置いてあった。


「歩」

「はい」


奥さんは、戻ってきた僕に声をかけると、母屋の方に来なさいと手招きする。

僕は『パール』のリードを外し、あいつの足をしっかり拭いてやった。



【22-4】

普段はしまい込んでいる片隅の記憶、
真実に迫るキーワードが、歩の元に届く。
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