22 片隅の記憶 【22-6】

【22-6】

「あれ? ばあちゃんは」

「15分くらい前に、お友達が呼びに来て、出かけたけれど」

「出かけた?」

「内藤さんって女性の方だった」

「あぁ……」


『憩いの和』のお仲間さんが、そういえば近くに住んでいた。

手先がとても器用な人だと、祖母から聞いた覚えがある。


「1時間くらいしたら戻るって」

「そっか」

「ねぇ……」

「何?」

「歩さんが、ここで眠っているのを見て、
歩は小さい頃からどこでもすぐに寝てしまう子だったって」

「ばあちゃんがそう言ったの?」

「うん……」


僕は、確かに小さい頃からどこでもよく寝ている子供だった。

両親と車で出かけたら後部座席ではなく、

窓と座席の隙間のような場所に入って寝ていたり、

布団を出した後の押入れや、箪笥の中でというのもあったと、

中学になりたての頃、母が友人の母に話していたことを思い出した。


「亡くなった母も、そう言っていたな」

「……そうなの? だから伸びたのかもね、身長」

「そうかな」

「きっとそうよ」


ほんの小さな出来事なのに、楽しそうに笑う遥を見ていたら、

気持ちよく眠れたという状況もプラスされてなのだろうか、

自分が今、とっても幸せなのだと、そう思うことが出来た。

人は欲張りなのだろう、さらに幸せを感じたくて、僕は彼女の手を引く。


「何?」


もっと近くに来て欲しいと、自分の隣の空いている場所を、ポンポンと叩いてみた。

今でも隣にはなっているけれど、体温を感じるくらい、そばにいて欲しい。


「……おばあさま、戻られるわよ」

「大丈夫だよ、1時間って言ったら、2時間だから」

「でも……」


そう言いながらも、遥は僕の隣に近づき、照れくさそうに笑顔を見せる。

僕は体を横向きにして、遥を足の間に閉じ込めた。

ゆっくりと腕を回し、首筋に鼻を近づける。


「ねぇ……『パール』が見てる」

「『パール』は誰にも言わない」

「……うん、でも……」


少し控えめに唇を合わせると、それでは物足りなくなり、

またゆっくりと顔が近付いた。

遥の舌先に触れると、彼女にもっと触れたいという欲求が、僕の中に目覚めていく。


「……イテ」


右手に強い刺激があり、横を向くと、

『パール』が僕の手をひっかくような仕草を見せた。

角度を変えて遥の頬に触れようとしたら、あいつは立ち上がり邪魔をする。

背中から首にあいつの足の爪が届き、結構痛い。


「『パール』……お前」


その時、玄関先でコトンとものが落ちる音がした。

僕達は、祖母が戻ったのかと思い、慌てて体を離す。

しかし、しばらくしても玄関は開かない。


「何か郵便かな」

「うん……」


僕は立ち上がり、玄関まで向かうと、ドアポストから下に茶色の封筒が落ちていた。

誰宛だろうかと表を見ると、『後藤歩様』と言う文字が、住所と一緒に印字されている。

差出人は誰だと裏を見たが、名前すら書いていなかった。


「なんだろう、業者からかな」

「業者?」


ダイレクトメールにしては、中に何やら封筒より細いものが入っている。

手触りからすると、それも紙に思え、僕は横の引き出しから小さなハサミを取り、

封を開けた。


「手紙だ」

「手紙?」


中に入っていたのは、少し古そうな白い封筒で、それはすでに読み終えた後なのか、

封が切られていた。封筒ごと取出し、宛名を見る。


「……は?」

「どうしたの」


『森中哲治様』


宛名は森中の伯父宛てだった。

僕のところに、どうして伯父宛の手紙が、送られてくるのだろう。

差出人を確かめようと裏を見ると、

そこに記された名前は、僕がよく知っている人で……


「母さん……」


『後藤景子』

伯父に手紙を出したのは、亡くなった母だった。

そう言われてみると、この筆跡には見覚えがある。


「そうだ、これ、母の字だ」

「お母さんの?」

「うん……」


今まで感じていた温かい空気は、冬の厳しい風の中、あっという間に消えていった。



【23-1】

普段はしまい込んでいる片隅の記憶、
真実に迫るキーワードが、歩の元に届く。
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