23 真実の扉 【23-2】

【23-2】

遥は、今年に入ってから駐車場を借り、あのオレンジ色の車に乗っている。

駐車場代は、僕と半分ずつ支払い、そのおかげで遠出も出来るようになった。

道路の端に止めてあった車に乗り、とりあえず扉を閉める。


「ごめんなさい、何も考えずに飛び出てしまって。でも、あのまま呆然と立っていたら、
おばあさまが心配すると思って」

「うん……」


そうだった。祖母は、僕が伯父から出生の話を聞いたことすら知らない。

今更、あれこれ話して、心配かけるのは、確かにかわいそうだ。


「ごめん、ボーッとしていた」

「ううん……当然だと思う」


僕は、折りたたんだ手紙をポケットから取り出し、遥に手渡した。


「私が見てもいいの?」

「うん。遥は読んでみてどう思うか、聞きたい」


遥は、年月の経った便箋を取り出し、1枚ずつ目を通した。

僕はその間、何も言葉を挟むことなく、ただ、じっと自分の足を見る。

過去と現在の出来事が、波のように行ったり来たりを繰り返す。


「朋子さんという名前に、何か手がかりがあるの?」

「いや……」


僕が覚えている限りで、母の友人や、僕の友達の親、付き合いのあった仕事の人で、

朋子という名前を持っている人の記憶はなかった。


「確かに、この書き方だと、おじ様とその朋子さんとの間に生まれたのが、
歩さんだという気がするかもしれない」

「うん……拓が勘違いをして、気持ちを乱すのもわかる気がするよ」


『朋子』

誰の名前なのかはわからない。知り合いがいる記憶もないのだけれど、

でも、それだけではない気がして、僕は落ち着かない。


「でもな、初めて聞く気がしない。どこかで……聞いた気がするんだ」

「聞いた? 名前を?」

「うん」


遥は僕に手紙を戻し、エンジンをかけた。

どうせならご近所を1周して戻ってこようと、動き出す。


「あと少しね、ここに桜が咲くの」

「あぁ、そうだね」


初めてこの道を車で通った日、僕は『MORINAKA』に納車を済ませ、

工場へ来る遥に乗せてもらった。

川沿いの道が、春になると桜でいっぱいになることを教えてあげた。


「おじ様には、おじ様の理由があると思う」


知っているのに、知らないと言った伯父。


「どうしてなのか、なぜ教えてくれないのか、歩さんが聞きたいのなら、
もう一度聞くべきだと思う」

「……うん」

「私は、あなたの決断に従う」


僕の決断。

伯父が黙っているのなら、それをぶり返す必要があるのかどうか、

それとも、たとえ互いに傷ついても、もやもやしているよりはマシなのかもしれない。


「ここに桜が咲くのを待つのは、
そう、未来を楽しみにするのは、とっても楽しいことだもの」


過去に縛られず、前を向こうと、そう彼女と約束した。

僕は『そうだね』と返事をし、まだ、何もない木々を見続ける。

寒くて、すぐに耳まで凍りそうな風だけれど、

その冷たさにウソがないのだと思えることが、今の僕には必要だった。





『朋子』

遥と『パール』が帰ってからも、この名前が気になった。

拓と僕の年齢の差は1つ。拓の母親と結婚し、

大きな会社の跡を継ぐことが決まった伯父が、その大事な時期に、

別の女性と子供を作るだろうか。

僕の母が、伯父の妹であることは、少なくとも拓の母親も知っている。

もし、伯父の隠し子だとしたら、そんな相手への援助など認めないだろう。


どう考えても、伯父の子供であるという結果を、受け入れる気分にはならない。

となるとやはり、『朋子』という女性がキーになりそうだ。



『託された』



僕は、伯父が言っていたような、

斡旋団体からもらわれてきたという話が違うことだけは、なんとか想像できた。


伯父なら、この『朋子』という女性が誰なのか、もちろん知っているのだろうが、

この間、話してくれなかったところを見ると、

単なる知り合いという間柄ではないのかもしれない。




伯父の若い頃……





知り合い……





僕は、思わずベッドから飛び起きた。

頭の片隅に残っていた小さな記憶のかけらを、精一杯動かしつなげていく。


「歩、お風呂入りなよ」

「うん……」


僕は携帯電話を取り出すと、遥の番号を回した。



【23-3】

手紙の謎から、真実の扉が開くとき……
歩の前に見えてくる 『天使のはしご』。
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