23 真実の扉 【23-4】

【23-4】

「歩さん」

「うん」

「可能性の話であっても構わないから、思ったことを話して。
そのために私をここへ、連れてきたのでしょ」


そう、遥をここへ連れてきたのは……


「うん……。だからさ、もし、『TEA』さんと僕につながりがあったとすると、
伯父は、本当のことを知ったのかと思って、驚いたのかなと……」


あの後、なぜこの『スレイド』に来たのか、伯父はわざわざ僕に聞きに来た。

僕は、責められるのが怖くて、『偶然』だということを、強調した。


「『TEA』さんも、歩さんのことを知っていて、それで工場に来たということ?」

「そう考えてしまえば、不思議ではなくなるんだ」


車の調子が悪いと、飛び込んで来た日。

どうして僕に仕事を振るのかと、疑問に感じた。

その後も、知り合いの会社を、うちに持ってきてくれたり、

ただ、僕が誠意を持って修理したということだけで済ませられないくらい、

大きなものをもらった。


「この写真の年、1987年」

「うん……僕が生まれた年になる」


長い間、アメリカで活動をしていた『TEA』さん。

僕の存在を気にして、会いに来たのだろうか。


「木下朋子さん」

「うん」


あくまでも、これは僕なりの推理でしかない。

『朋子』という名前なら、この世の中にもっとたくさんの人が持っているはずだ。


「遥と、初めてここへ来て、『TEA』さんの歌を聴いたとき、
僕は心の奥底に閉まっていたはずの、亡くなった両親への気持ちを思い出した。
何もしてあげられないまま、別れることになってしまった悲しみが、
今更、湧き上がってきて、気付くと泣いていた」


歌が素晴らしいから、気持ちがそこに入り込んだから、

それだけではなく、細い線だけれど、そこには僕という小さなつながりがあって、

そこから生まれてきた感情だったのだろうか。


「その後、仕事の紹介までされて、
世話になるのが苦しいからとここで会ってもらったときも、
同じように気持ちを揺さぶられた。
『誇りを持って仕事をしているのか』と問いかけられて、自分の甘さに気付いたし、
あらためて……君への思いにも、気付かされた」


厳しい世界に挑んだ人だからこそ、言えるセリフであり、

響く言葉だった。


「伯父に、あらためて聞いてみようと思う。
どういう経緯で僕が後藤の両親のところに行ったのか、
今までのようにただ受け止めるのではなくて……」


何もわからず、言葉を受け止めるのではない。


「僕の思いがあっているのかどうか、今度は逃げずに聞いてみる」

「歩さん……」

「拓のためにも、その方がいいんだ。
僕は『MORINAKA』に入るつもりなどないけれど、あいつはきっと苦しんでいるから」


幼い頃から、『MORINAKA』を継ぐことが義務付けられている人生。

あいつにも、あいつの苦しみがある。


「ねぇ……」

「何?」

「歩さんが、とっても素敵に見える」

「は?」

「酔っているのかな、私」


遥はそういうと、ワイングラスを手に取った。

酔っているわけがない。まだ、運ばれてきただけで、乾杯もしていないのに。


「酔っているわけがないだろう、まだ何も飲んでいない」


遥はそれもそうねと言いながら、笑っている。

真面目に重たい話をしているつもりだったが、なんだか拍子抜けしてしまった。



そう、彼女と話をしていると、ふっと……

気持ちが軽くなる。


「乾杯」


過去に悩まされるのではなく、過去を乗り越えるため、

僕は、優しい笑顔を持つ人に励まされ、また一歩を踏み出す勇気を得た。

アルバムを開いていた僕達の前に、支配人の持田さんが現れる。


「お久しぶりです」

「あ……はい」


この人は、『TEA』さんがこの場所に立ち、そして旅立ったことを知っている。

僕は、そう思いながら、慎重に言葉を押し出した。


「『TEA』さんの本名なのですね、この『木下朋子』って」


持田さんは穏やかな顔のまま、僕の方を見る。


「木下朋子と……書いてありましたか」

「……はい」


違うのだろうか。

『TEA』さんの名前ではないとなると、話がまた振り出しに戻ってしまう。


「『木下』というのは、本名ではありません」

「エ……」


『木下朋子』が本名ではない。

僕は思わず、遥の方を見た。


「でも、ここに……」


遥は、それならばなぜ、ここに『木下朋子』と書いてあるのかと、

教えて欲しいとそう言った。持田さんは軽く頷く。


「『木下』という名字は、彼女が自分を下にすべきだと思い、あてた漢字です」

「下にする?」

「はい」


意味がわからない。つまり『木下』は本名ではないということだけはわかった。


「『TEA』の本名を、お知りになりたい理由が、後藤さんにはおありですか」


『TEA』さんの名前を知りたい理由。

持田さんの表情が全く変わらない状態に、僕は今まで考えていた推理が、

正しいのではないかという気持ちに、どんどん傾いていく。


「はい……理由があります」

「そうですか」


持田さんの視線を気にした遥が、心配そうに僕を見る。


「その理由を、ここで語るべきですか?」


語らなければ、答えてくれないのなら、語るしかない。


「いえ、結構です」


しばらく休憩状態だった舞台に、先ほどのバイオリニストが戻ってきた。

ライトが店内から、舞台上へ明るさを移動させる。


「『木』よりも『木』がたくさんあるもの、そして『下』よりも少し上を示す漢字、
それぞれを当てはめてみてください」

「下よりも上?」

「はい」


どういう意味だろう。僕は遊んでいるわけではないのに。


「『木』よりも木……『林』ですか」


遥がそう尋ねた。確かに『林』だと『木』よりも1本多い。


「もう少しです」

「もう少し? それなら『森』? で、『下』よりもって……」




「『TEA』の本名は、『森中朋子』です」





『森中朋子』



「『木』より木が多いのは『森』、『下』よりも少し上なのは『中』。
『TEA』は自分をそう位置づけました。
『森中』の名字を語ることに遠慮があったので、『木下』とそう……」

「森中さん……」


僕よりも、遥の方が、先に言葉を出した。

『森中』というのは、あの森中だろうか。


「あの……」

「私がお話できるのは、ここまでです」


持田さんはそういうと、頭を下げ席の前から離れていく。

僕達は、手を伸ばして続きを聞くことも出来ないまま、顔を見合わせた。



【23-5】

手紙の謎から、真実の扉が開くとき……
歩の前に見えてくる 『天使のはしご』。
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