24 光りの先 【24-4】

【24-4】

「そう……」

「うん」


『MORINAKA』を出た後、僕は遥の部屋へ向かった。

おにぎりを作って待っていると言ってくれていた人は、なにやらおかずも作っていて、

あとは整えるだけの状態になっている。


「おにぎりって言わなかった?」

「うん、でも、おばあさまから教わったおかずもあるから、頑張ってみたの。
どうかな、煮物」

「ふーん……」


どんな話を伯父がしてくれたのか、僕は彼女に隠さず告げた。

隣に拓もいて、全てを聞いてくれたこと、

拓も手紙を見つけて、ずっと苦しんでいたこと、

遥は頷きながら聞き続け、最後には笑顔を見せてくれる。


「拓ちゃんもわかってくれたのならよかった。拓ちゃん一人っ子だから、
きっと誰にも言えなかったのね」

「うん、そうだね」


会社では社長の息子として、周りからも注目されているし、

友達だと言っても、以前紹介された人たちだと、互いにライバル意識もあるだろう。

心を解き放ち、無防備になれる人……



拓にとっても遥は、そういう人だったのだろうか。



「これからはきっと、歩さんがその相手になれると思う」

「僕が? 拓の? いや、無理だろう」

「ううん、そうだと思う。全く別の環境にいるけれど、でも、
森中の伯父さんを通じて、共通点もあるし」


僕と拓の間柄は、変わるだろうか。

心の底から笑いあえる日は、これから来るだろうか。

そんな日を持つことが出来たら、嬉しいのだけれど。


「ん?」

「あれ? 味付けおかしい?」


目の前には、不安そうな遥の顔。

僕は眉間にしわを寄せ、少し苦しそうな顔を見せる。


「やだ、塩と砂糖間違えた? ううん……だって」

「美味いよ」


そう、これは演技。味は全く問題ない。

ちょっとだけ、目の前にいる人を困らせてみたかった。


「……何よ、それ」


テーブルを越えて、僕に怒りを現す遥の声と、

何か楽しいことが始まったのかと、そこに参加する『パール』の鳴き声が、

小さいけれど、温かい部屋の中で何度も響く。


「あ、ごめん、ごめん、わかったって」

「もう、本当に!」


心の底から申し訳ないと謝っていると、僕の携帯にメールの届く音がした。

伯父だろうかと思い画面を見ると、相手は『TEA』さんだった。


「何? 何かあった?」


おそらく、伯父から今日のことを聞いたのだろう。

『TEA』さんは、『スレイド』で会えないだろうかと、そう提案してきた。



僕をこの世の中に産み出してくれた人。

この人がいなければ、僕は今、こうしていることはなかった。


「『TEA』さんが会って欲しいって。遥、一緒に行ってくれる?」

「いいの?」

「うん、君に一緒にいて欲しい」


遠慮がちに頷く遥の頭に触れながら、感謝の気持ちを込めて、キスをする。



『わかりました。『スレイド』には大切な人と向かいます』



僕はそう『TEA』さんに返信すると、遥との食事の続きに戻ることにした。





それから1週間後、『TEA』さんと会う日がやってきた。

すっかり覚えた道を、遥と進む。それまでは楽しそうに仕事の話をしていた彼女が、

店が近くなり口数も極端に減ってしまった。


「どうして急に黙るの?」

「だって……今更だけれど、本当に私がいていいのかなって」

「いいんだよ。大切な人と一緒に行きたいと返信したら、
そうして欲しいって答えをくれただろ」

「うん……」


『TEA』さんの顔を見て、今更、何かを責めたりしたいわけではない。

ただ、これが区切りであるような、そんな気がした。

僕はこれからも僕であることは変わらない。それをあらためて見つめるために、

今日は遥と一緒に店へ入る。


「いらっしゃいませ」

「はい」


階段を降り、扉を開けると、支配人の持田さんが、僕らを出迎えてくれた。

今日は『定休日』。つまり、僕らしかこの場所にはいないことになる。


「すでにお待ちです」

「はい……」


僕と遥が手をつなぎ、中に入っていくと、

初めてこの店に来たとき座っていた場所に、『TEA』さんがいた。

目があったため、頭を下げる。


「来てくれて、ありがとう」

「いえ……」


初めて工場に来てくれた時から、この人の目が優しく見えたのは、

僕達に切り離せないつながりがあったからなのかもしれない。


「あなた……このお店に一緒に来てくれた方よね」

「はい。椎名遥と申します。すみません、着いてきてしまって」

「いえいえ、そんなことはないのよ。大切な人を連れて行きますと、
そうメールに書いてあったので、私もお会いしたいと思っていたの」


『TEA』さんは、空いている椅子に座ってくださいと手で合図してくれた。

僕達は、『TEA』さんと向かい合うように、椅子に座る。

今までで、一番緊張する。


「哲治さんから、連絡をもらいました。本当に、色々と辛い話になってしまって、
ごめんなさい。こうして会ってくださいと、
お願いする立場ではないこともわかっているのだけれど、でも……」


歌手になることを夢見て、色々な出来事の中でも自分を奮い立たせて来た人、

生半可な気持ちでは、ここまで来られなかっただろう。


「……あなたに会いたかったの」


『TEA』さんはそういうと、僕に向かって深々と頭を下げてくれた。



【24-5】

僕は今、この場所に生きている。
『天使のはしご』から届く光と、優しい人の笑顔の元で……これからもきっと。
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