24 光りの先 【24-5】

【24-5】

僕はそんなことはしないでくれと、何度もお願いする。

憎むとか、恨むとか、そういった思いは、本当に何もない。


「僕は、自分が亡くなった両親の子供だと思っていたので、血液型を知り、
それが違うとわかったとき、本当にショックでした。今まで積み上げてきたものが、
全てウソだと言われているみたいで、どうしたらいいのかと……」


そう、それは本当のことだ。

考えてもいなかったことが、現実に起きてしまい、受け止めるだけで精一杯だった。


「でも、それならどうしてこうなっているのか、それを知りたくなりました。
今は、本当にほっとしています。『TEA』さんが、どうして工場に来てくれたのか、
縁のある企業を紹介してくれたのか、そういうことも全て納得がいきました」


僕の言葉に、『TEA』さんは少しずつ顔を上げてくれた。

僕は大丈夫ですと、軽く頷く。



「僕は……」



『歩』

『歩、宿題はしたの?』

『ほら、早くしなさい』



「僕は……自分の親は、今でもあの二人だと思っています」



全てを知っても、血のつながりはなにもないことがわかっても、

僕はずっと、死ぬまで、亡くなった二人を親だと思い続けていたい。

それは、どうしても譲れない。

『TEA』さんは、その通りだというように、しっかりと何度も頷いてくれた。


「でも、初めてここへ来て、『TEA』さんの歌を聞かせてもらった日、
やっと、素直に両親を亡くした悲しみと向き合えたんです。
辛かったこと、嬉しかったこと、何気ない生活の1コマが、鮮明に蘇ってきて、
思わず泣いていました」


そう、この場所で、僕は『TEA』さんの歌を聴きながら、涙を流した。

隣に座る遥も、そのことは覚えているだろう。


「その後、またここを訪れたときには、『仕事に誇りを持っているのか』と聞かれ、
日々を流して生きている自分の甘さにも気づきました。
『IF WE HOLD ON TOGETHER』、あの歌を聴くと、本当に心が軽くなるんです。
亡くなった母が好きだったからかもしれませんが、きっと……」



『IF WE HOLD ON TOGETHER』

困難を乗り越えていこうという、希望への曲。



「『TEA』さんの歌声だからだと……そう思います」


同じ曲でも、CDで泣いたことはなかった。

それはきっと、形には見えない糸があるから。

『母』と呼ぶのは難しいけれど、でも、他の人とは違う何かが、

見えない何かが、僕達の間にはある。


「……私の曲で?」

「はい。今、こうして大切な人だと紹介できるのも、『TEA』さんの曲と言葉に、
僕が励まされてきたからなのです。それは間違いありません」


『血』という見えないつながりが、僕達の間には存在する。

それも、死ぬまで変わらない。


「ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました」


乗り越えられないと思っていた出来事も、こうして乗り越えてこられた。

僕は一人ではないのだということを、色々な意味で感じ取れた。


「あなたが、立派な社会人になっていることがわかって、本当に嬉しかった。
それと同時に、ご両親が亡くなっていたことが、本当に悔しくて」


『TEA』さんは立ち上がり、舞台の上に立った。

スタンドマイクには、スポットライトが当たっている。


「『天使のはしご』をご存知?」

「はい。雲の切れ間から……」

「そう。このスポットライトのように、その場所だけが天からの光を受けるでしょ」


マイクの前に立つ『TEA』さんに、スポットライトが当たっている。

周りとは違う空間が、そこには存在した。



「あなたのご両親に、私の気持ちが届くようにと……いつも願うのよ」



そう言うと、『TEA』さんは伴奏もないまま、

『IF WE HOLD ON TOGETHER』を歌い始めた。

僕は、舞台の上に立つ人を見たまま、父と母のことを思い出す。

もう、二度と会うことは出来ないけれど、僕に真実を伝えたがっていた両親が、

きっと、こういう日を作ってくれたのだろうと、心からそう思えてくる。


僕が今、ここまで来たことを、喜んでくれているだろうか。

子育ても一段落できたと、二人で笑っているだろうか。


隣に座る遥の手が、僕の左手に触れた。

僕は、その手を、しっかりと握りなおす。



僕は一人ではない。

そう思いながら、『TEA』さんの曲を聞き続けた。





それから数日後の土曜日、空は朝から厚い雲に覆われている。


「あ……」

「なんだよ、ばあちゃん」

「ご飯炊くの……って、そうだ、今日は遥ちゃんが当番してくれるんだっけね」

「あぁ、そうそう、ばあちゃんはお仲間と茶飲み会だろ。僕のことはいいから、
準備しないと」

「はいはい」

「それじゃ、行ってきます」


部屋を出て、バイクのある場所まで向かう。

一度空を見上げたが、雨はまだ降っていない。この後、お日様が顔を出すのか、

それとも雨模様になるのか……


「よし……」


僕はいつもどおり工場に向かい、少しだけ時間をくれないかと社長夫婦にお願いした。



【24-6】

僕は今、この場所に生きている。
『天使のはしご』から届く光と、優しい人の笑顔の元で……これからもきっと。
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