1 才能の種類 【1-3】

【1-3】

「社長が面接を?」

「そうなの。3日前だったかな。急にお店に来て、ここで面接していたのよ。
珍しいでしょ、今までだってそんなことなかったし」

「はい」


小さな会社だから、毎年新卒を取るようなことはしていない。

となると、すでに経験者なのだろうか。それにしても事務所ではなく、

どうしてここで面接をしたのだろう。


「相手からのご指名だって。土居さん、面接を終えて言っていたけど」

「ご指名」

「そう。面接はこの店でって、向こうが指定したそうよ。
なんだか家具を見て、話を聞きたいと言ったらしい」


家具を見て話したいということになると、やはり経験者だろう。

どういう経歴を持つ人なのだろうか。


「男性ですか? それとも」

「男の人よ。スラリと背が高くて、受け答えもハキハキしていたし好感持てた。
あ、そうそういい男だったし……」

「いい男?」

「うん、えっとね昔の俳優で言うと、『居眠り三四郎』の蔵元新之助のような……」


『蔵元新之助』って誰だろう。

聖子さん、話は楽しい人だけれど、年齢差を埋めるトークはなかなか難しい。


「で、その人が一番気に入っていたのが、これだったのよ」


聖子さんが指で示したのは、私がアイデアを出し形にした『チェスト』だった。


「これ?」

「そう。この店に偶然入って、たまたまカウンターでコーヒーを飲んだときに、
このチェストが目に入ったんだって。私はその人に覚えがないから、
きっとバイト君が店番していた時だったんでしょうね。
どこの製品ですかって聞いて、で、この通りの向かいにある『DOデザイン』だって、
教えてあげたそうよ」




私のデザインを、認めてくれた人がいた。




いや、私のデザインだと気付いてくれたわけではないけれど、

でも、間違いなく、その人の心に何かが響いたのだろう。


「ここ、仕切ってくれたの、伊吹さんでしょ?」

「あ……はい」


仕切ったのは伊吹さんだけれど、あのチェストは私が担当しましたと、

ここで強く言うのは、大人げない気がした。

それでも、『退職願』を出す前に、少しだけ心があたたかくなる。

私にも、6年の中で何かが残せたような、そんな気がした。





「おはようございます」

「あ、おっはよう! 知花ちゃん」

「おはよう、優葉ちゃん」


小暮優葉は、私より1つ年下の事務員さん。

笑うとかわいらしいえくぼが出てきて、見ているとなんだかこっちまで笑顔になる。

経理担当で、社長の恋人である塩野さんには、よく仕事が遅いと怒られているけれど、

そんな嫌味を右から左に聞き流せる強さは、本当に見習いたい。


「社長は、もう来ている?」

「5分くらい前に来ましたよ。新人さんも連れて」


優葉ちゃんは、この『DOデザイン』では、自分以来の新人だと、

嬉しそうにそういった。


「本当に新人が入るんだ」

「あれ? 知花ちゃん、知っていたんですか? 私なんて10分くらい前に知って、
驚いて叫んだのに」

「ううん、知っていたわけではないの。今、『COLOR』の聖子さんから情報もらった」

「聖子さんから? あぁ、そうですか。私、少し前に会いましたけど、
結構背が高くて……」


優葉ちゃんが左手で自分の背丈よりも上を示したとき、

奥の部屋の扉が開き、社長が顔を見せた。

その後ろには、少し前に噂した新人さんが立っている。


「あ、おはよう、長峰」

「おはようございます」


本当に背の高い人だ。180以上あるだろうか。


「あのさ、お前の隣に少し隙間があるから、机を詰めてくれないかな」

「はい」


私は、社長に言われるまま机を持つ。そして背の高い彼が、反対側を持ってくれた。


「すみません、朝から」

「いえ」


私の机が動いた場所に、今まで奥で役割のなかった机が、きっちり収まっていく。


「よし、いいね」


常にデザインなどを考え、寸法を気にしている人たちの特技だろうか。

細かく計ることなどしなくても、だいたいのスペース感覚がわかってしまう。

入るのか、無理なのか、それを一瞬で判断できる。


「正式な自己紹介は、伊吹が来てからの方がいいな。
何度も同じことを言うのは、三村君が苦手そうだし」

「ありがとうございます。社長にはさっそく見抜かれてますね、俺の性格」

「いやいや」


社長はそういうと、優葉ちゃんにコーヒーを入れてくれないかと頼み、

自分の席へ座った。


「三村さん……は、コーヒー飲みますか?」

「あ……すみません、いただきます」


三村さんは私の隣に腰かけると、おもむろに足を組み、何やら小さな板を持った。

そこに1枚の紙を乗せ、デスクの中央に置いたデザイン用のペンを1本取る。

私は、今なら社長と話が出来ると思い、バッグから『退職願』を出すつもりで、

手を入れた。




そう、手で『退職願』を取り出し、社長のところへ持っていく、

今日、すべきことはそれなのに、私は自分の場所から動けなくなった。




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《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【長峰知花】
この物語の主人公。年齢は28歳。
デザインの仕事が好きなのだが、自分の思いを言葉に出すのが苦手。
料理、裁縫など、女性的な仕事は得意。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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