1 才能の種類 【1-4】

【1-4】

三村さんは何を思い浮かべ、描き始めたのだろうか。

1本の線だったはずなのに、それが形を見せ始め、さらに奥行きを作り出す。

ほんの少しの時間。

そう、優葉ちゃんがコーヒーを入れてくれる時間の中で、

紙の上には、質のよさそうな椅子と机が描かれた。

今は、PCで専用のソフトを使い、デザインを作っていくのが主流。

こんなふうに目の前で線が面から立体になるのを見ていると、

アナログだけに、ずっしりと響いてくる。


「あの……」

「はい」

「何か」



気付かれていた。

じっと見ていたことに……。



恥ずかしい。



「おはようございます」

「おぉ、伊吹。よし、揃ったぞ。三村君、前に来てくれるか」

「はい」


三村さんは、せっかく描いていたデザイン画をクシャッと丸め、

私との間にあるゴミ箱へ、そのまま捨ててしまった。

つぶされた紙は、少しだけ元に戻ろうとするが、その小さな抵抗はすぐに終わってしまう。


「ではあらためて紹介する。今日から『DOデザイン』の新戦力となった、
三村紘生(こうき)君だ」

「はじめまして、三村です。家具のデザインを思い切りやってみたくて、
この事務所に入社を希望しました。口は悪いですし、態度はでかいですが、
心底悪いやつではないと思いますので、よろしくお願いします」


土居社長の拍手に、メンバーがさらに拍手をかぶせ、

三村さんを歓迎するという挨拶が始まった。

社長は、せっかくだからと、社員全員に自己紹介をするように促していく。

チーフを務める伊吹さんは、学生じゃあるまいしと照れながらも、

その場で立ち上がった。


「えっと……まぁ、一応、チーフデザイナーをしている伊吹訓之(のりゆき)です。
うちは小さい事務所なので、それぞれが営業も兼ねています。
僕の頭は社長と同じように年齢もあり、そろそろ固まり始めていると思いますので……」

「おい伊吹、それどういうことだ」


伊吹さんの挨拶に、社長はまだまだこれからだと、胸を張ってみせる。


「あはは……すみません。でも、社長、そこは胸を張っても仕方がないです。
若い三村君の新しい発想と感覚に期待していますので、どうか頑張ってください」

「ありがとうございます」


伊吹さんは席に座ると、タブレットを取り出し、すぐに仕事をし始めた。


「三村君、俺は伊吹と違って、まだまだだからな」

「あ……はい」

「うん。それなら、次は小菅」

「はい」


デザイナーの小菅さん。

2年前に結婚し、今もご夫婦共働きを続けている女性。


「デザイナーの小菅美恵です。久しぶりの新人入社なので、楽しみです。
色々、意見をぶつけあって、いい仕事をしましょう」


小菅さんの挨拶に、三村さんはわかりましたと頭を下げた。

そして、座っている場所が近かったため、経理の塩野さん、

さらに優葉ちゃんが、仕事の内容とちょっとした話題を一つ、挨拶に入れていく。



そして……私の番。



「デザインと営業と、両方担当しています。長峰知花です」


先輩方のように、仕事のことを付け足すほど、私には実績もない。

三村さんに期待しますなんて言葉も、もちろんつけられるわけもなく、

ただでさえ中身のない挨拶が、本当に短く終了してしまう。


「おぉ、そうだ。三村君、君が面接で感動したと言っていたあのチェストは、
この長峰のデザインだ」

「あ……本当ですか」





あのチェストに感動?

そこまで言われていたなんて。





「へぇ……あのチェストは、長峰さんの作品ですか」

「あぁ、長峰はあまり器用な社員ではないけれど、
作品に『ぬくもり』を持たせることが上手いヤツだよ。
三村君にも、きっといいアイデアをくれるはずだから」

「はい」


社長の言葉が、チクチク胸を刺す気がした。

私には、一瞬でわかってしまったから。

三村さんは、ものすごい才能を持っている人だと思う。




私には、あんなデザイン画、どう転んでも描けそうもない。




「私は……」





『知花たちは大変だよな。競えないから実力が見えないし』

『どういうこと?』

『ごめん、気分悪くするかもしれないけどさ。
知花の考えるようなデザインなら、うちのデザイン室に、ゴロゴロしているよ』

『ゴロゴロ?』

『あぁ……。『林田家具』社内でも色々と試験があって、
みんなで競い合うからだろうね、質が高いんだ』





「私は、本当に何も出来ないんです。
実力不足で、みなさんに迷惑ばかりかけています」


そう、この6年という月日。仕事に手を抜いた覚えはないけれど、

満足感も得られなかった。それは私の実力不足。


「長峰。新人を前にしているからって、謙遜ばかりしなくていいんだぞ」

「社長……」


謙遜をしているわけではなくて、本当にそう思うから。


「よろしくお願いします」

「……はい」


最後に、三村さんの挨拶があり、社長もすぐに動いてしまったため、

その日、結局、私は『退職願』を出すことが出来なかった。




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《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【長峰知花】
この物語の主人公。年齢は28歳。
デザインの仕事が好きなのだが、自分の思いを言葉に出すのが苦手。
料理、裁縫など、女性的な仕事は得意。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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