1 才能の種類 【1-6】

【1-6】

「面白み……ないですか」

「ないですね。憧れて入ったけれど、現実を知れば知るほど、嫌になってしまって」


現実というのは、私に実力がないということで、

デザインの責任ではないのに。

どうしよう、言葉が止まらない。


「面白みがないだなんて、本気で思いますか?」

「思っているから言ってます。どうせデザインなんて……」


そこで三村さんがいきなり立ち上がり、私の台詞は止まった。

何かされると思い、心臓が大きく動き出す。


「どうせデザインかぁ……ショックだな、
あのチェストを作った人が、そんな言い方をするなんて」


三村さんは私の顔を見ないまま、今度はゆっくりと座り直す。

今の行動の意味、なんだったのだろう、よくわからない。


「俺には……過去から未来へ向かうような、大きな可能性を感じたものだったのにな」




『過去から未来……大きな可能性』




自分に見えたのか、あの作品に見えたのか……


「三村さんはこれからじゃないですか。頑張ってください」

「長峰さんだって、これからでしょ」



これから……



「俺たちはまだ、この世界ではひよっこです。色々なものを見て、感じて、
それを自分のものにしていく時期じゃないですか。
それなのにわかりきったようなことを言って、やめてしまうなんて、
もったいないですよ」



私の、これから……



「もったいない?」

「はい」

「勝手なことを言わないでください」

「は?」

「私だって、何も感じていないわけじゃありません。
わかりきったとは言わないけれど……」



わかってしまったことが、たくさんあるから。



「結婚して仕事をやめることが、そんなにいけないことですか?
否定されることですか?」



おかしい。

自分がおかしいことに、自分自身が一番気づいている。

今日、初めて会った三村さんに、これだけ気持ちをぶつけてしまうなんて。

完全に八つ当たりになっている。


「結婚を否定しているわけではないですよ。ただ……」

「ただ?」

「俺は、自分が好きで選んだ仕事を、
本当に知ろうとせずに馬鹿にしているあなたの台詞が、許せないだけです」


私は両手を握り締めた。

三村さんに思い切り言われているのに、言い返せない。


「長峰さんの言うとおりだと思いますよ、商売ですからね、
たまには気に入らないこともあるでしょうし、誰だって腹が立つこともあるはずだ」


思いを語る三村さんの目は、私のことを見ていない。

私もその思いから目をそらそうと、下ばかり向いてしまう。


「でも、どうしても譲れないものがあるから。
絶対にこの仕事をしたいという思いがあるから、
そんな自分の気持ちが何よりも大切だから、俺はこの仕事を選びました」


そう、私もそうだった。

やりたいことが出来るから、初めて自分からこの仕事を選んだ。


「でもまぁ、確かに、理想ばかり描いて、選択を間違える人もいるでしょ。
世の中は動きますし、素敵なデザインは必ず出てきます。
長峰さんの考えはわかりました。どうぞ、幸せな結婚をしてください」


私が悪い。

三村さんの『才能』に悔しさばかりが膨らんで、

罪のない人に、自分の苛立ちをぶつけてしまった。

でも、ここで引き下がれない。


「えぇ、そうします。私には私の思いがありますから。
それでは、お疲れ様でした」



『ごめんなさい』

そう言えばいいのに、ここでは、この場では言えなかった。

今謝ってしまったら、何もかもダメになる気がして。



私はバッグを肩にかけ、三村さんの方を振り返ることなく、

事務所の扉を開け、少し暗くなった廊下へ出た。

エレベーターを待たずに階段を駆け下り、そのまま外へ出る。



『でも、どうしても譲れないものがあるから。
絶対にこの仕事をしたいという思いがあるから、
そんな自分の気持ちが何よりも大切だから、俺はこの仕事を選びました』



何かが怖くて握り締めていた手を離し、バッグのひもを強くつかむ。

私は事務所のあるビルを振り返ることなく、駅に向かって歩き続けた。




【2-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【長峰知花】
この物語の主人公。年齢は28歳。
デザインの仕事が好きなのだが、自分の思いを言葉に出すのが苦手。
料理、裁縫など、女性的な仕事は得意。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

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こちらこそ、こんばんは

拍手コメントさん、こんばんは

>初めてここを知り、過去作品から読み続けています。

ありがとうございます。
ただ、毎日空想、想像を続けてきた結果、これだけになってます(笑)
お好きな時間に、お付き合いいただけたら嬉しいです。