2 二度目の謝罪 【2-3】

【2-3】

手のインク。

捨てたところだって見られていなかったし、

昨日だって、話題にもならなかったのに。そんなところから……


「おい、長峰! ちょっと」

「はい」


伊吹さんに呼ばれ、席の方へ向かうと、昨日のデザイン画が、

きちんと描き直されていた。


「これ、お前がアイデア出したって?」

「は?」

「いいよ、いいよ。素材の生かし方も魅力的だし、この脚の部分のカーブ。
おしゃれじゃないか」

「俺は普通に伸ばしただけですけど、この遊びを入れてくれたおかげで、
椅子の背もたれ部分に余裕が出来ました」

「そうだな……。なんだよ長峰。
お前、普段からこういうのガンガン遠慮せずに出せよ」

「じゃ、これ、検討してもらえますか」

「おぉ、出してみようか。長峰のセンスが……」

「違います、私ではありません」


伊吹さんが持っていたデザイン画を取り上げ、私はそのまま三村さんに押し戻した。


「私の作品ではないですから。出すのなら三村さんの名前で出してください」

「……どうしてですか」

「どうしてもこうしてもありません。迷惑です」


いくら私に実力が不足していても、人のものを横取りするようなことはしたくない。


「描いたのは三村さんです」

「いやいや、長峰さんのアイデアがなければ、これは平面のままでした。
あなたの発想が、膨らませたんですよ」

「……嫌なんです」


きちんと顔を見合わせて、打ち合わせをして出来たものなら、

私だってありがたく名前を載せてもらう。でも、昨日の私は、勝手に描いただけ。

しかも、泥棒のように紙を拾い、勝手に描いた。


「自分が関わったとなるのは、嫌だってことですか」

「はい」

「俺一人の名前で、これを出せ……と」

「はい」


描いたのは私ではなく、三村さんなのだから、当たり前のこと。


「だったら結構です」


三村さんは、私の目の前で、せっかく描きあげたデザイン画を思い切り破りだした。


「おい、三村、お前何しているんだ」


伊吹さんも予想外の出来事に、そう言うのが精一杯だった。

綺麗に描かれた紙は、三村さんの手によって引きちぎられ、

2、4とどんどん枚数だけ増え、小さくなっていく。


「三村、おい!」

「俺も、一人で出せと言うのなら、嫌ですから」

「お前、そんなことをしなくても話をすれば……」

「長峰さん。仕事がおもしろくなくなったと、昨日そう言いましたよね」


そう、勢いで私はそう言った。

いや、実際、それは本音もある。仕事に慣れてくればくるほど、

メインに立つことが出来ずに、誰かのフォロースタッフの位置ばかり、

立つようになっていた。


「それって、仕事のせいじゃなくて、あなたの気持ちの問題でしょう。
こうしなければならないとか、こうしたらダメだとか、
そんなふうにしか考えられないから、つまらないものしか出来なくなるんです」

「三村……」



つまらないものしか……



「右の次は左、バランスばかりを取ろうとして、自分自身が全く見えていない。
確かに、そんな人は辞めてもらう方が懸命ですね」

「な……」



悔しくて言い返したいのに、言葉が出て行かない。

その代わりに……



「ヒャー!」



優葉ちゃんの悲鳴が、事務所内に響く。

私の右手は、思い切り三村さんの頬をひっぱたいた。


「三村、長峰……」


私は誰の顔を見ないようにして、そのまま事務所を飛び出した。





今回は、私が悪いわけではない。

適当なことを言ったわけでもないし、ウソをついたわけでもない。




人の気持ちなんてお構いなしに、言いたいことを並べて怒った、

三村さんが悪い。





だから絶対に、謝らない。




【2-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【黒田幹人】
知花の婚約者。年齢は32歳。
大手家具メーカー『林田家具』のトップ営業マンという自信もあり、
女性を引っ張っていくタイプ。

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