2 二度目の謝罪 【2-5】

【2-5】

黙って聞いているのかと思っていたけれど、どうも眠ってしまっているらしい。

私は、ベンチの横から前に回り、『アトリエール』を拾う。



『心が穏やかになる家具インテリア』



すぐに閉じるつもりが、誌面に広がる世界観に、私自身が引き込まれる。

母から譲り受けた『桐箪笥』をリフォームし、現代風にアレンジしたもの。

木のあたたかい雰囲気を保ったまま、

怪我を防止するためにクッション素材を組み合わせる。


おもしろい発想……


単純にそう思った。

誌面を見ると、上に付箋が貼られている。

三村さんが貼ったのだろうか。



三村さんは、どう感じたのだろう。

古さと新しさのコラボレーション。



元々3人がけのベンチ。

右端に三村さんが座っているので、反対の左端に腰かけ、『アトリエール』をめくる。

春の優しい日差しの中だからだろうか、風が心地良いからだろうか、

なんてことのないページに映る家具たちが、キラキラ輝いて見えた。

昔のものは、材料の質がいいから、磨けば磨くほど色を本物にする。

始めは軽い色を見せていても、呼吸をし年数を重ねると、その色が深くなる。


「へぇ……」


リサイクルと簡単に言うけれど、それだけではない。

より使いやすく、また、デザインも変えて……


「それ、実際に見せてもらったことがあります」

「この、桐箪笥のことですか?」

「はい。知り合いが、手がけたもので」

「そうですか……」



見てみたい。

手で、触れてみたい。少し曲線をつけた持ち手部分は、どうなのだろう。



「……で、ここに来たってことは、長峰さんもタバコ、吸うということですか?」

「いえ、私は……」


何気なく答えを返した相手は、当たり前だけれど、三村さんだった。

私は立ち上がり、広げた『アトリエール』をパタンと閉じる。

そうだった。思い出した。

私、何をしているのだろう。


閉じた『アトリエール』を三村さんに戻し、平手打ちしたことだけを謝罪する。


「ほぉ……平手打ちだけの謝罪ですか、今度は」

「そうです。悪いことは悪いので謝ります。でも、それ以外の部分は、謝罪しません。
昨日と違って、私は間違っているとは思えないので」


三村さんは、一度私の方を見た後、急に笑い出した。

初めは軽く口元を緩めていただけなのに、それが少しずつ大きくなり、

最後には声を出している。


「確かに……」


三村さんは、ベンチに雑誌を置き立ち上がると、ポケットからタバコを取り出した。




『WOLFのメンソール』

幹人と一緒。




「デザイン画のことは謝らないと来ましたか、
あなたも相当な意地っ張りですね、長峰さん」


そっちだって、腹を立ててデザイン画を破ったくせに。

私のことだけ言わないで欲しい。


「見てみますか? これ」

「これ?」

「はい。この桐箪笥。見て触って、何か感じてみたくないですか?
よかったら俺、連絡取りますけど」




見てみたい。

見て、触って、どういう作りになっているのか、自分で理解したい。




……けど。




「平面で満足出来るデザインと、立体的にしたいデザインとがあるんです」


平面と立体。


「俺にとっては、あなたが作ったあの『チェスト』も、その一つです」


私が作った『チェスト』

三村さんも買いたいと言ったって。


「余計なことですよね」


三村さんは、そう言うと私から少しずつ離れ、タバコを吸い込んだ。


「お願いします」


半年後には辞めてしまう仕事なのに、心が叫んでしまった。


「この桐箪笥、見てみたいです」


私の言葉に、三村さんはタバコをくわえたまま、黙って頷いた。




【2-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【黒田幹人】
知花の婚約者。年齢は32歳。
大手家具メーカー『林田家具』のトップ営業マンという自信もあり、
女性を引っ張っていくタイプ。

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