2 二度目の謝罪 【2-6】

【2-6】

『雑誌に載ってしまったから、色々と取材があるらしくて、
すみません、2週間後の水曜日なら、空いているそうです』



あの桐箪笥を見にいく日が、来月最初の水曜日に決まった。

三村さんが社長に話をしてくれて、仕事の時間内に、見学を許してもらう。

会社から車で1時間半くらい走ったところだと言っていたけれど、

あれだけ緑のある雰囲気だから、もっと田舎だと思っていた。


「知花……聞いてる?」

「あ……ごめん」


今日は、幹人が私の両親に挨拶をしてくれる日。

昨日からスーツの雰囲気はどうだろうかと、気にしていたっけ。


「道、あっているよね」

「大丈夫よ」


私の両親が住むのは、千葉県の先になる。

まだまだ、自然があふれていて、夏になると虫取り網を持ち、

ビーチサンダルで歩く子供たちが多い。


「あと、どれくらい?」

「そうね、20分もあれば」

「そうか20分か……緊張してきた」

「緊張?」


幹人はハンドルを握りながら、大きく息を吐いた。

いつも、自信に満ちた幹人の、どこか落ち着かない表情がおかしくて、

私は思わず、笑顔になる。


「何笑っているんだよ、知花」

「あ……笑ったのわかった?」

「わかるよ、ミラーに映ってる」


幹人は、挨拶をする自分の方が緊張すると、今度は軽く咳払いした。


「緊張なんてしなくていいの。もう、両親も幹人のことは知っているし、
そういうときが来たなくらいにしか、思っていないでしょうから」

「まぁ、そうだろうけれど、けじめだからさ」

「うん」



『お嬢さんをください』



よく、テレビドラマで見るようなことを、幹人はこれからするつもりだろう。

『プロポーズ』を受けたことは話してあるし、母は、私のアパートで幹人にも会っている。

反対なんてありえない。


「俺さ、どんな取引先にも、これだけ緊張することないけどな」

「あはは……」


幹人は右折の合図を出し、右へ曲がった。

景色がいよいよ、近くなる。


「幹人、次の信号、今度は左に入って」

「あぁ……」

「で、そのあとすぐに右、そうしたらもう目の前だから」

「目の前……ね」

「うん」

「……よし」


車は、少しずつ狭い通りに入り、速度を落としながら、ゆっくりと我が家に近付いた。





「いらっしゃい」

「すみません……」

「ただいま」


車の音に気付き、出迎えてくれたのは母だった。

幹人は緊張しながら頭を下げ、私と一緒に家の中へ入る。

リビングには、テレビを見る父がいて、

いつもなら休みなど家にいない3つ年下の弟、『知己(ともき)』も座っていた。


「お休みのところ、申し訳ありません」

「いやいや、どうぞ」


知己は、幹人を見るのが初めてだからなのか、ずっと目で追っている。

私は幹人をソファーに座らせて、母の手伝いをするためにキッチンへ向かった。


「ねぇ、知花。ちらし寿司にしたけれど、幹人さん平気?」

「大丈夫よ、好き嫌いなんて言わない人だから」

「そう」


幹人には幹人の緊張があるけれど、両親には両親の緊張がある。

それでも、それなりの食卓が出来上がり、昼食を取る準備が整った。

幹人と視線が合い、食事の前にと立ち上がる。


「今日は、僕達のためにすみません。食事をいただく前に、
ご挨拶をしておきたいので、よろしいでしょうか」


父も母もそして弟も、姿勢を整え、幹人の言葉を待った。


「あらためまして、黒田幹人と申します。
1年半ほど前から、知花さんとお付き合いをさせていただいています。
先月、彼女にプロポーズをし、受けてもらいました。
しかし、結婚は僕らだけのものではないので、今日、こうしてご挨拶に伺いました」

「はい」


幹人と出会った頃のこと、プロポーズをされた時のこと、

色々と、私の中で蘇っていく。


「お嬢さんと、結婚させてください」


反対されるとは思っていないけれど、でも……

幹人と揃って頭を下げていると、父はすぐに頭をあげなさいと言った。


「黒田君」

「はい」

「知花は、小さい頃から我慢強い娘でした。しかしそのために時々、
自分を上手く出せずに、耐えてしまうことがあります。
どうか、大きな心で娘を包み、支えてやってください」

「はい」



……お父さん



「お料理だけはね……なんとか形になっていると思いますが、
仕事をしている子だから、色々とご迷惑をかけるでしょうけれど……」

「いえ、迷惑だなんて。知花さんの料理は本当に上手いですし、仕事は……」



……仕事



「辞めてくれることになりましたので」


幹人の言葉に、母は少し驚いたような顔をした。




【3-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【黒田幹人】
知花の婚約者。年齢は32歳。
大手家具メーカー『林田家具』のトップ営業マンという自信もあり、
女性を引っ張っていくタイプ。

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