3 水と油 【3-2】

【3-2】

片側の挨拶を済ませば、もう片方も行かなければならない。

今週は幹人が出張するため、黒田家への挨拶は、さらに1週間後と決まった。

今度は私が緊張する番。

こんな未熟者、気に入ってもらえるだろうか。


「おはようございます」

「あ、優葉ちゃん、おはよう」

「何ボーッと歩いているんですか。ぶつかりますよ」

「そんなにボケッとして見えた?」

「見えました、見えました」

「ひどいなぁ」


優葉ちゃんと一緒にエレベーター前に向かうと、

『DOデザイン』の上にある『税理士事務所』のみなさんが、

叩いても壊れなさそうなカバンをしっかりと持ち、前に立っていた。

『DOデザイン』の他に、4社がこのビルに入っているらしいが、

ラフな格好を認められるのはうちくらいのため、エレベーター前に立つと、

いつも浮いている気がしてしまう。

それは優葉ちゃんも同じようで、人が多いという憂鬱さ以上に、

エレベーターには、いつも窮屈さを感じていた。


「おはようございます」


事務所内に入ると、社長の前に、メンバーが揃って立っていた。

伊吹さんも、小菅さんも、何やら紙を見ながら、あれこれ指差している。

三村さんも目の前の椅子に座り、同じように紙を見ていた。

社長が私に気付き、手招きする。


「はい」

「長峰、どうだこれ、見てみてくれ」

「はい……」


渡されたのは、『エアリアルリゾート』が河口湖に作る、高級ペンションのパンフレット。


「あの……これ」

「その下、紙があるだろう」

「紙?」


『シルバー世代を意識した、高級感のあるペンション』

下に入っていた紙は、ペンション内を一つのイメージにまとめ、

部屋の中に統一した家具を、設置するという話だった。


「壁の埋め込みと、テーブルや椅子も合わせてだ」


熟年層をターゲットにしたもので、落ち着いた雰囲気を持った家具を、

オリジナルで並べたいというものらしい。

一緒についている資料には、3年前にオープンした伊豆高原の家具写真がついていた。


「いいだろ、わくわくしないか」

「……そうですね」

「伊豆高原で手がけたところを、最終的には選ぶということではないですかねぇ……」


チーフの伊吹さんは、企業同士の結びつきがあるからと、

そう意見を送り出した。小菅さんも、それはそうだと隣で軽く頷き返す。


「まぁな、それがないとは言えないが、建物も全く違う雰囲気を持たせたいと言うし、
今回は、田中本部長がうちの仕事を見て推してくれているわけだし」

「田中本部長がですか」

「あぁ、元々伊豆高原の時にも頼まれたんだよ、ただ、それをこなせるだけのものが、
当時のうちにはなかった。商品を生み出す段階の仕事が多くて、
プロジェクトに回す余裕がなかったからな」

「まぁ、そうですね」


『DOデザイン』は、会社としてもうすぐ10年を迎える。

今でこそ、過去の注文から仕事をくれる企業も増えてきたが、

確かに、5年くらい前は、名前を出していくことだけで精一杯だった。


「そうなると5年越しの期待となるわけで、ここはなんとしても取りたい」

「うーん」


『トータルコーディネート』

確かに仕事としては魅力的だ。家具と家具をどんどん組み合わせ、空間を埋めていける。


「伊吹さん、悩んでいても時間がもったいないですよ。やりましょう」

「三村」

「大きなこと一つうまくいけば、その先の道なんてどんどん広がります。
社長、これは絶対に取りましょう」

「……そうだね。三村君の言う通りかも。チャレンジする意味はあるよ」

「おぉ、小菅もその気になったか」

「はい」


二人がそう前向きならと、伊吹さんも何とか頷き、

『DOデザイン』の新しい挑戦が決定する。




『スッキリとしたデザイン』




向こうがこうして欲しいというおおよその構図が、小菅さんの背中越しに見える。

だとすると、伊豆高原の写真を見ても思うように、飾りをあまり多くしないで、

機能性を追及するほうが、いいのだろうか。


「俺だったらこれ、思い切りラインをつけますけどね」

「あえてカーブのラインか」

「はい……」


『カーブ』をつけたら、『スッキリ』となるだろうか。


「長峰はどう思う?」

「私は……」


『カーブ』のラインにするのは、確かに魅力的だけれど、

後ろに映る壁のイメージからすると、軽めになりそうな気がする。

ターゲットは変化をあまり好まない世代。


「どう思う? 思うままに言ってみろ」


伊吹さんと小菅さんが、それぞれ私を見て、

どういうことを言うだろうかと、待っている。

大きなプロジェクトなどに関われないことがわかっているけれど、でも、

ここは『スッキリ』を希望されているのだから……


「私はカーブではなく直線にしようと思います。スッキリ感を出せるのは、やはり……」

「……だと思いました」


三村さん……


「長峰さんに聞いたら、カーブなんて反対ですよ。
引き出しやすさに、こだわるんじゃないですか?」


私の意見は、自分の口よりも先に、三村さんに言われてしまった。




【3-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【三村紘生】
知花の同僚。年齢は31歳。
外国を数年旅しながら、デザインの仕事に携わってきた。
知花の『チェスト』に感動し、『DOデザイン』に入社。まだまだ謎の多い人物。

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