3 水と油 【3-4】

【3-4】

「はい、お待たせ」

「うわぁい、おいしそう」


その日の昼食は、小菅さんと優葉ちゃんと、『COLOR』に向かった。

優葉ちゃんはお気に入りの『とろりんオムレツ』を注文し、

スプーンを持つと手を合わせる。


「今日はそれにしても、優葉ちゃんのナイスアシストだったわよね」

「はい」

「私、また知花ちゃんが三村君の頬をひっぱたくんじゃないかって、
ハラハラしちゃったわよ」


小菅さんのセリフに、優葉ちゃんもその通りだと、口を動かしながら頷いている。

私だって、あの瞬間は予想外の出来事だった。そう何度もあってはたまらない。


「叩きませんよ」

「いやいや、わからないわよ。なんだろうね、こう、会えばぶつかるっていうの?
まだ、1ヶ月も彼が来てから経っていないのに、何かというとぶつかっているでしょ」


初日、2日目、その他にも小さないざこざが、確かにあった気がする。

そして今日。


「私にはそのつもりはないですけれど、三村さんが……」

「はい、『エビスパ』は誰だっけ?」

「あ、はいはい、私です」


聖子さんはトマトソースで味付けした『エビスパ』を小菅さんの前に置いた。


「なんだね、知花ちゃんと、新人三村君は犬猿の仲なの?」

「そうなんですよ、聖子さん。何かというとすぐにぶつかりそうになって。
まるで『水と油』です」

「水と油?」

「ようは正反対なんですよね。意見も考えも」

「そうですよね。今日だって、知花ちゃんは直線で、三村さんは曲線で……」

「直線と曲線?」


私が頼んだ『ドリア』が出来上がり、聖子さんはそれを持つと、前に置いてくれる。


「あら、そんなに二人は違う? 私はそうは思わなかったわよ。
だって、あの『チェスト』が大好きで、お気に入りってところは、
二人そっくりなんだから」


聖子さんはそう言いながら、店の奥を手で示す。


「『チェスト』? あぁ……あれなのね、社長が言っていたのは」

「社長?」

「ほら、三村君の自己紹介の時に……あら? 優葉ちゃん、聞いていなかったの?」

「聞いていましたよ、思い出しました」


小菅さんの反応に、優葉ちゃんもつきあい、二人は席を立つと、

『チェスト』を見ようと、カウンターの前に立った。

聖子さんは、もっと早くに言ってくれたらよかったのにと、つぶやいてくれる。


「いえ、全体は伊吹さんですから。本当にあれだけです、私が関わったのは……」

「そんなに謙遜しない、しない」


小菅さんと優葉ちゃんは納得したのか、席へ戻ってくる。


「もっとアピールしなさいよ、知花ちゃん。いいじゃない。
なんだかこう……『ふわっと優しい』。そう、知花ちゃんみたい」



『知花ちゃんみたい』



あのチェストが私……


「いいラインもあるし、色もいいわよ」

「そうですか……」

「うん」


小菅さんに褒められるなんて、なんだか恥ずかしいけれど、嬉しい。


「まぁさ、三村君と知花ちゃんは水と油かもしれないけれど、
あまり毛嫌いせずに仕事してごらんなさいよ。
同じ水と油でも、思いきり混ぜあうと『ドレッシング』のように、
素敵な味を作れるかもしれないわよ」


聖子さんはそういうと、私たち3人分のランチサラダと、

話の中に出てきた『ドレッシング』を置いた。

小菅さんはその容器を取り、『COLOR』オリジナルドレッシングを振って混ぜ始める。


「そうか、ドレッシングね。確かにこれはお酢と油。まぁ、水と油だもんね。
聖子さんたとえ上手かも」

「そうそう、そうです」


水と油かぁ……

ドレッシングは元の場所に戻されると、またそれぞれの方向へ別れ始めた。





『水と油』の私と三村さん。

ランチを終了して仕事場に戻ると、

少し前の言い合いは幻だったのかと思うくらい、普通に仕事が出来た。


「あぁ、これ」

「結構やっかいで」

「これならすぐに調べられますよ。たしか、水を含めたときの方が……って、
少し待ってください」

「あ、ありがとうございます」


三村さんは、どちらかというと感じたままをストレートに表現しようとする。

それは自信の表れだと思うけれど、

急に止まってしまうと、そこから石のように動かない。

私は、資料として使えそうな雑誌や、過去の作品集を取り出し、

その度に横へ重ねていく。


「あぁ、そうか、これね」

「はい。以前、同じようなものがあったなと思ったので……」


今回の口げんかは、どちらも自分の意見を言っただけ。

悪いわけではないので、謝る必要もなく……




いや、謝った方がいいのかもしれないけれど、

無理やりするものでもない気がして……




そして、私が『桐箪笥』を見せてもらえる水曜日がやってきた。




【3-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【三村紘生】
知花の同僚。年齢は31歳。
外国を数年旅しながら、デザインの仕事に携わってきた。
知花の『チェスト』に感動し、『DOデザイン』に入社。まだまだ謎の多い人物。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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