5 他人の人生 【5-5】

【5-5】
次の日、先に会社へ来ていた小菅さんが、私を見つけるとすぐに謝ってくれた。

事情を知らない優葉ちゃんも説明を聞き、そうだったのですかと驚きを見せる。


「まさかさぁ、三村君があんなふうに言い出すとは思わなくて、
ごめんね、声なんてかけなければよかった」

「いえ、気にしないでください」

「大丈夫だった? 彼」

「大丈夫ですよ、彼も大人ですから」

「そうそう、エリートの大人ですもんね」


優葉ちゃんは、幹人のことをそう表現し、朝のコーヒーの支度をし始めた。

小菅さんはそれならばいいけれどと、少しほっとした顔を見せてくれる。


「『NORITA』の打ち合わせ、うまくいったのですか?」

「あ、そうそう、そうなのよ。うまくいったの」

「よかった……」


私はそこから話をそらして、自分の席へ向かった。

隣の三村さんの席を見ると、すでに新しいタバコがおいてある。

おそらく、屋上にいるのだろう。


「ふぅ……」


小菅さんには、そう言ったけれど、あの後、幹人の機嫌は最悪だった。

帰りの電車の中でも、一言も語ることなく黙っていたし、

今日の朝も、メールで『退社を早めてくれ』と念押しがあった。

その返信で尋ねた『引き出物』の件では、

『好きにしていいから』という言葉が戻ってきた。



『好きにしていい』

どこか突き放されているような気持ちになりながら、

私は屋上にいる三村さんのところへ向かった。





屋上の扉を開けると、朝の時間だからなのか、

他の企業の人たちも数名タバコを吸っていた。

その中でも、うちの社員はラフな姿なので、すぐにわかる。


「おはようございます」

「……俺、謝罪はしませんので」


三村さんがしおらしく謝ってくるとは思っていなかったので、

別に怒りも何もない。


「謝ってくれと言いに来たわけではありませんので」


そう、私は謝ってほしいと思ったわけではない。

ただ、これ以上、幹人に対して嫌な思いを持って欲しくないだけ。


「三村さんの言葉、正直嬉しかったです。この会社に勤めて6年、
これといった作品も残すことが出来なくて、やり遂げたという思いもないですけど、
でも、昨日の言葉に、少し救われた気がします」


考えてきたわけではないけれど、言葉が自然と流れていった。

私が、悩んで仕事を辞める決意をしたことを、幹人にわかってもらえたらそれでいい。


「幹人は、ずっと先頭に立って頑張ってきた人だから、
あんなふうに強く出てしまうのです。もっと違う言い方があるのに、
うまく出なくて……で……」


優しいところもたくさんある。

だから、私は、彼を好きになったのだから。


「長峰さん」

「はい」

「あなたを見ていると、昔の自分を思い出すんですよ。言いたいことも言わずに、
やりたいこともみんな我慢して、それが自分の生きる道だって、信じていた頃の……」


昔の自分?


「人は、必ず何かを傷つけて生きるんだと、俺は思います。
傷つけるのが自分なのか、相手なのか、知らない他人なのかわからないけれど」


三村さんの過去……

いったい、何があったのだろう。


「俺は、それに耐えられなかった人間なので……」


耐えられなかったのは、傷つくことだろうか、

それとも、傷つけられることだろうか。


「あんな言い方しか、出来ませんでした」


三村さんはタバコの火を灰皿で消すと、初めて私の方を向いてくれた。

昨日とは違う、優しそうな表情。


「『シンメトリー』いいと思います。もう少し、細かいところ詰めましょう」

「……はい」


私は、三村さんの後に続き、事務所へと戻ることにした。





「どうしてここを曲げるのですか」

「曲げたいからですよ」

「ここは絶対に、直線です!」


少し前まで落ち着いていた会話が、仕事に戻った途端、またバトルになってしまった。

人のデザインをいいと認めたくせに、また三村さんがいじり始める。


「ここは絶対に譲りませんよ、俺」

「……だったら、ゼロからになりますけれど」

「おぉ……いいじゃないですか、振り出し。望むところですよ、戻しましょう」





また、振り出し。





「あはは……そう」

「そう……じゃないですよ、事務所中、二人の声で不満分子が充満して、
息苦しい、息苦しい」

「優葉ちゃん」


優葉ちゃんと『COLOR』に向かうと、聖子さんが早速、

私たちの話を楽しそうに聞いてくれた。




【5-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【伊吹訓之】
デザイン組のリーダー。年齢43歳。7歳、4歳、二人の男の子の父親。
責任感も強く、メンバーから絶大なる信頼を寄せられている。
タバコが大好きで、つい吸い過ぎてしまい、妻に怒られている。

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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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