6 着信記録 【6-2】

【6-2】

私たちのイメージはだいたい出来上がった。

あとは社内と社外の競争に勝ち抜けるかどうか。

それから材料の発注をして、さらに完成品を配置していく。

まだまだ仕事はたくさんある。

結婚式のある10月まで、なんとかギリギリ、出来るところまで関わりたい。

幹人は幹人で忙しいだろうが、私だって、今までの生活を一変させるのだから、

ここは希望を話して、なんとか認めてもらわなくては。

携帯電話を取り出し、幹人の番号を選ぶ。

その時、出張で東京にいないことに気付き、ボタンに触れそうになる手を止めた。

家にいるのなら、あれこれ話すことも出来るだろうが、

出張には今までの経験上、上司が一緒のことが多い。

個人的なことを携帯で知らせていては、幹人の迷惑になるかもしれない。

私は戻ってきたら話そうと考える。

画面には、着信記録のマークが残り、ライトが点滅していた。




080から始まる、知らない番号が、そこにあった。




誰だろう。

仕事先で知り合い、かけてくれる可能性のある人は全て登録してあるし、

会社の番号ではなく、これは携帯の番号。

鳴らしてくれた時間が長ければ、それなりに気付くはず。

一瞬、そのままかけてみようかと思ったが、妙な勧誘の電話だと後から面倒だし、

何か用事がある人ならまたかけてくるだろうと思い、私は携帯を閉じた。





長く続く雨の日があるかと思うと、今日はそれに逆らうような快晴。

式場になるホテルの最寄り駅で、千葉から出てくる母を待った。

母は、何やら紙袋をぶらさげて改札を出ると、どっちに向かえばいいのかと、

顔を左右に向ける。


「お母さん……」


少し大きく手を振ると、母はすぐに気付き、同じように手を振ってくれた。


「知花、ごめん、ごめん。待った?」

「大丈夫、ごめんねここまで出てきてもらって」

「久しぶりに都心の電車に乗ったわよ。ほら、これ持って」


母は、午前中に私と衣装合わせを終えた後、

仕事先である『DOデザイン』に挨拶をしたいと、地元の有名和菓子を買ってきた。


「事務所に挨拶を?」

「そうよ。他にどこへ行くのよ。だって、こちらの都合で退社させていただくのでしょ。
今まで6年間お世話になって、お母さん、事務所にご挨拶をしたこともなかったし。
こういうことでせっかく出てきたのだから、そのまま帰るのもねぇ」

「いや、でもそれまずいよ」

「まずい? どうして」

「だって私、今日有給取ったし」


有給を取らせてもらったのに、衣装合わせをした帰りに、

親を連れてきたなんて、仕事の邪魔でしかない気がする。


「邪魔かしら」

「うちは小さい会社だから、そんなに空きのスペースもないし……」

「でも、みなさん知花の事情はご存知なのでしょう。そんなに長居はしないわよ。
家に帰って夕飯の準備もあるもの」

「うーん……」

「大丈夫よ、お母さんちゃんとやるから。ね、いいじゃないの、顔を出すくらい」

「……わかりました」


私は紙袋を母から受け取り、ホテルまでの道のりを歩いた。

母は、なぜ幹人がいないのかと尋ねてくる。


「幹人は出張中。それにね、衣装合わせには出ないって」

「出ない?」

「当日まで、私がどういうドレスを着るのか、楽しみにしていたいって。
結構いるらしいのよ、新郎さんに秘密ってパターン」

「エ……秘密? だって、衣装を合わせないと、色合いだってあるでしょう」

「だから、担当者の方がいるの。担当者の方は、両方を見てくれているから、
アドバイスしてくれるって」

「へぇ……そんなものなのかしらね、今どきって」

「そうなのよ」


ホテルまで数メートルくらいのところで、携帯が鳴り出した。

私は、幹人がこの時間を知っていてかけてきたのかと思い、すぐに開いてみる。


「もしもし……」


つなげたと思った電話は、すぐにプツリと切れる。

ツーツーという音だけが、何度も繰り返された。


「どうしたの?」

「ううん」


誰からなのかと表示を確認すると、

この間の『着信記録』にあった知らない番号が、表示されている。



『080……』



誰なのだろう。


「ねぇ、知花。ここ?」

「うん」


間違い電話にしては、二度目になる。

しかも、日付を変えてなんて少し妙な気がしたが、ホテルの目の前に立っていたので、

私は携帯をそのままバッグへ押し込んだ。




【6-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【小菅美恵】
知花の同僚。年齢33歳。
ご主人はプラモデルが大好きな、中学校の教師。
知花にとってはよきデザイナーの先輩であり、相談相手。

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