6 着信記録 【6-3】

【6-3】

「どう?」

「いいわね、知花らしくてかわいいわよ」

「そうかな」


幸せの日を待つ女性が2名、私と同じように母親とドレスの試着に来ていた。

片方の人は、私よりも年齢が高そうで、

ドレスも飾りの少ない大人っぽいものを選んでいる。


「こちらはどうでしょうか。少しベールが長めのものですが、
お嬢様はお顔が小さめなので、お似合いかと」

「どう? 知花、着てみる?」

「うん……」


一生に一度の日。

私は結局、3着のウエディングドレスを試着し、その中で一番気に入ったものを予約する。

披露宴用のドレスも2着、それぞれ色合いの違うものを選んだ。


「こちらを選ばれたことを参考にして、新郎様の方も、私が立ち会いますね」

「よろしくお願いします」


女性が先に選び、それに男性を合わせていくことが主流らしく、

担当者の女性は、幹人へのアドバイスも約束してくれた。

今日のメインを終了し、せっかくだからとホテルの中で昼食にする。


「はぁ……」

「どうしたの? 疲れた?」

「ううん、疲れたわけじゃないの、なんだか複雑だなと」

「複雑?」

「そうよ。式場決めて、衣装を決めて……。そうか、いよいよ、
知花がお嫁さんになるのだなって、そう思うから」

「……お母さん」


母は、五目焼きそばを注文し、私はチャーハンを注文する。

ウエイトレスが頭を下げて、その場を離れていった。


「おかしなものよ。娘がいつまでも一人でいれば、それはそれで気になるし、
でも、嫁に行くとなったら、今度は本当に『幸せ』になれるのかどうかと心配になる。
まぁ、それが親なんだけどね」

「うん」

「大学を出て、どうしてもデザイン関係の仕事に着きたいって、
知花、一人暮らしを始めたでしょ。もう6年も家を出ていたのにね、
やっぱり嫁ぐって言うのは特別なものだわ」


私は長峰の名前から、黒田になる。

私にしてみたら別にそれだけだと思うけれど、母からすると違うらしい。


「お母さんは、これからもお母さんでしょ。あんまりしんみりしないでよ。
おめでたいことなのに、なんだか申し訳ない気持ちになるじゃないの」

「あぁ……ごめん、ごめん。そうだよね」


母は、またいつものように明るい声を出し、

さすがに料理が美味しいと、笑顔を見せてくれた。


「ねぇ、ちょっと頂戴」

「いいよ、ほら」

「うん」


お父さんが、久しぶりに風邪をひいたこと、

弟がせっかく出来た彼女と別れてしまったことなど、

それからは私以外の話題で盛り上がった。





「本当に挨拶に行くの?」

「あら、冗談だと思っていたの? 行くわよ、そう言ったでしょ」


母の決意は固いように思えたので、私は携帯電話を取り出し事務所に連絡を入れた。

優葉ちゃんが出てくれたので、事情を説明する。

社長は、一日事務所にいることがわかり、受話器を閉じた。


「大丈夫だって、本当に挨拶だけしたら帰ってよ」

「はいはい」


母は、駅に着くと化粧を直すと言い出し、私はしばらく柱のそばで待った。

すると携帯電話が鳴る音が聞こえたため、バッグから携帯を出す。

音はすぐに消えてしまい、嫌な予感がしたため着信記録を見ると、

また、知らないあの番号から、かかってきていた。



今朝といい、今といい、

これは、いたずらでも、間違いでもない……



私にはそう感じた。

誰かが、私の携帯だとわかって、それでかけてきている。

もし、暇つぶしのいたずらなのなら、直接文句を言うべきではないだろうか。

私は一度深呼吸をした後、勇気を出して、着信の番号にあえてかけなおしてみた。



何度も鳴る呼び出し音。

相手は出る気持ちがないのだろうか。




カチッと受話器の上がる音がした。




「もしもし……」


向こうからの声は聞こえない。


「もしもし、すみません、どちら様ですか」


声は聞こえてこないが、何かざわついた音が受話器から聞こえてくる。

プルルルル……という音。

これは……


「もしもし……」



『……発、東京行き……』



『東京行き』

独特の語り方、行き先を告げる車掌の声。



……新幹線のホーム。



相手の人は、どこかの駅で新幹線に乗ろうとしているのだろうか。


「もしもし……」


わからない。声を出してくれなければ、男性なのか、女性なのかも……




『……行くぞ』




その時、初めて遠くに声が聞こえた。




【6-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【小菅美恵】
知花の同僚。年齢33歳。
ご主人はプラモデルが大好きな、中学校の教師。
知花にとってはよきデザイナーの先輩であり、相談相手。

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