6 着信記録 【6-6】

【6-6】

出張から戻った幹人と電話で話をしたのは、衣装合わせの2日後だった。

私は、いくつも試着をし、自分では一番気に入ったドレスを選んだと報告する。


『そうか、うん。知花が満足しているのならよかった。
そのドレスにお義母さんも納得されてるの?』

「母は私がよければそれでって……」

『そう……それなら次は俺の番だね』

「うん」


幹人はこの週末に衣装を合わせに行くので、その後で食事をしようと約束し、

その日の電話を終えた。





「本当ですか?」

「あぁ、色々と話し合った結果、
我が社からは、長峰と三村が作ったアイデアで行こうということにまとまった」


『エアリアルリゾート』が手がける、高級なペンション。

そのトータルコーディネート。

私と三村さんが言いあいをしながら作り上げたアイデアが、

『DOデザイン』の候補に決定した。

来週、実際に会社へ出向き、どういったコンセプトを持つのかなど、企業側に提案する。


「行けるか、二人で」

「あ……はい」


まだ、全てが決まったわけではないけれど、でも、間違いなく一歩前に進めた。

私にとって、これだけ大きな仕事にメインで関われるのは、久しぶり……

いや、初めてかもしれない。


「絶対に取りましょうね、長峰さん」

「はい……」


あれこれ悩んでいた時間が、無駄にならずに続いていく。

自分にも、人に評価してもらえるものが、出来た。


「……泣いてます? もしかして」

「泣いてなんていません。何言っている……」



……でも、確かに感動していて、鼓動が速い。

言われたからなのか、少しだけ物が見づらくなっている気がした。



「三村さん」

「はい」

「ありがとうございました」


涙を流すまいと思っていたら、そんな言葉が自然と出てしまった。

実力不足の私、年齢だけ積み重ねたけれど、だからといった結果しか残せなかった。

デザインが採用されたのはきっと、

私が気付けない三村さんのアイデアが、細かく入っているから。


「どうして、俺にお礼なんて言うのですか」

「だって……最後にこんな充実した時間を持つことが出来るなんて、
全く思っていなかったから」


そう、私はフェイドアウトするように、ここから消えていくのだとそう思っていた。

『長峰知花』なんていうデザイナーは、いたのかどうかもわからないくらいに、

存在の薄いものだと思っていたから。



「仕事……辞めないでくださいよ」



三村さん……


「まだ、長峰さんだって、やりたいことがいっぱいあるでしょ」


やりたいこと……確かにいっぱいあるけれど。

やれるものなら、やり続けたいけれど……



『何が一番大事なのか……』



「……って、俺のわがままですね」


三村さんはそういうと、ギリギリまでしっかり働いてくださいと、

言葉を濁してしまった。

私は、幹人が出来たら早くやめて欲しいと言っていたことを思い出す。

仕事が忙しく、そばにいて欲しいと言ってくれた幹人の気持ちも理解できる。




でも……




最後まで全力を尽くしたい。

私は、そう思いながら、幹人と待ち合わせた場所へ向かった。





駅前の広場には、大きな噴水とオブジェがある。

その前で待っていると、視線を動かしながら歩く幹人を見つけた。

私は手をあげて、ここだとアピールする。


「ごめん、ごめん、待っただろ」

「ううん。長引いたの? 衣装合わせ」

「俺はこれでって言ったのに、担当の人がこっちもあっちもってうるさくてさ。
主役は嫁の方ですからって言っても、聞いてくれないんだ」

「あはは……それが仕事だもの、向こうの人の」

「まぁ、そうだけどね」


幹人はどんなタキシードを選んだのだろう。

そう考えると、秘密も悪くない気がする。


「……行くぞ」





『……行くぞ』





幹人の声……





あの時の、声に……




「どうした知花、行くぞ」




あの声に似ている……



ううん……あの声は、幹人だ。




私は思わずバッグの紐を強く握る。


「どうしたんだよ。店を予約したから」

「うん……」


大きく打つ鼓動を落ち着かせながら、私は幹人の後ろを必死についていった。




【7-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【小菅美恵】
知花の同僚。年齢33歳。
ご主人はプラモデルが大好きな、中学校の教師。
知花にとってはよきデザイナーの先輩であり、相談相手。

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