7 流れる風 【7-2】

【7-2】

京都の職人さんが縮緬の生地で作ったという、小さなネコの人形。

手にとって見ると、お手玉のようにクシャッと形を変える。


「出張、京都だったの」

「あぁ……新幹線が結構込んでいて、帰りが大変だった」



『……東京行き』



新幹線のホーム。

あの声はホームで話した声だったはず。

だとすると、やはり幹人だったのだろうか。



思い出すまいとしても、頭の中から離れていかない。

いったい、誰が電話を……


「気に入らない?」

「ううん、かわいい、ありがとう」


本当にかわいい。鏡台の前においておこう。


「ねぇ、幹人」

「何?」

「幹人って、携帯を2つ持ったりするの?」

「携帯? どうして」

「よく、営業マンとかは仕事用とプライベート用を分けて持つって、
何かの番組で見た気がするから」


この際、可能性がありそうなところは、全て探っておきたかった。

もしかしたら、別の携帯を持っていて、私の番号が登録してあって、

それが何かの間違いで鳴ってしまったのではないか。


「いや、持たないよ。面倒だろそんなの」

「まぁ……うん」

「今は、登録件数だって昔に比べて格段に多く出来るようになったしね。
あえて分ける必要も、ない気がするけど」

「あ、そうだよね、うん」

「どうしたんだよ、妙な質問だね」

「そうよね」


メイン料理が、私たちのところに届き始めたため、

そこからは招待状を出す話や、新居の話が持ち上がる。


「知花、新居だけどさ」

「うん……」

「どうせ半年しかこっちにいないから、
とりあえず俺の部屋にくればいいと思うんだけど、どう?」


幹人の住むマンションは、わりと駅に近い1LDKだ。

広めのリビングと寝室があるから、確かに2人でも暮らせるだろう。


「知花の荷物は、まぁ、最低限のものだけ持ってきてもらって、
残りは実家に預かってもらえないかな。1年向こうに行くだろ、
条件に合う場所を、戻ってきてから探したいんだよね。
借りてすぐにいなくなるっていうのも、なんだかもったいないし」

「うん……」

「その辺、知花からご両親に頼める?」

「うん、大丈夫だと思う」


私が幹人の部屋へ居候するのは、状況的に仕方がないだろう。

半年間だけなのだから。


「よし、知花の料理が待つ部屋へ帰れる日まで、もう少し……か……」


幹人はそういうと、楽しそうにナイフとフォークを手に持ち、

ソースのかかった肉を、切り始めた。





幹人と別れてから、私は電車で空いている席に座り、手帳を広げた。

この3ヶ月くらいの間で、彼が出張だった日。

会えないのだとわかっていたので、手帳に印をしておいた。

今までも『出張』がなかったわけではないし、どちらかというと多い方だと思う。

今までは、私も自分が仕事をしていたために、

出張回数まで気にしたことなどなかったけれど、

あの電話の声が幹人に似ていたということが、妙な思いを膨らませた。



『長野』 『長崎』 『京都』 

そして来週は『大阪』だと聞いている。



『林田家具』の工場は、全国にいくつもあるし、幹人はトップ営業マンとして、

全国を飛び回ることもわかっている。

でも、ここのところ、本当に数が多い。




『……行くぞ』




あの声がもし、幹人なのだとしたら、一緒にいた相手が上司と言うことはないだろう。

私に使うような言葉を、かけることはありえない。

だとすると……


「まさか……ね」


一緒にいたのが女性だとしたら、

普段私に言うような声をかけてもおかしくない。

でも……





幹人に限って、そんなこと……





これだけ結婚後の話を、自分からしているのに……





私は手帳を閉じると、携帯電話を開き、あの番号を確かめる。



『080……』



この数字の向こう側に、いったい、何があるのかと思いながら、

電車に揺られ続けた。




【7-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【木暮優葉】
事務担当。年齢27歳。
笑うとえくぼが出てくる。好きなメニューは『とろりんオムレツ』。
歩くスピーカーと言われるくらい、おしゃべりが大好き。

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