7 流れる風 【7-3】

【7-3】

今日も朝から雨。

さすがに梅雨、季節はその意味を裏切らないように出来ている。

毎年来るとわかっていても、傘ばかり持つ毎日は、洗濯物もスッキリしないし、

気分はあまりいいものではない。


「もう、本当に!」


優葉ちゃんが、電車で隣になった男性が、傘をしっかり閉じずに乗ってきて、

洋服にしずくがついたからとブツブツ文句を言った。


「いやぁ……まいった」


伊吹さんは昔から悪い腰が、この時期になるとガッツリ存在をアピールすると、

毎年同じことを言っている。

小菅さんは二人の話を、笑顔で黙って聞いてあげていて、

塩野さんはマイペースに電卓を弾く。

三村さんは……


「どうでしょうか、これで」

「うーん、この素材でだろ?」

「はい。脚の長さが削れないので、どうしでも強さの面で」

「まぁ、そうだな」


秋に作る予定の、喫茶店用の椅子。

『新装開店』にあわせて、新しいデザインが組み込まれることになり、

社長が担当を三村さんに決めた。

梅雨寒の雰囲気が漂う中で、あの場所だけがやたらに熱気を帯びている。



『秋』



この季節からの仕事に、私が関われることはなくなった。

正直寂しいけれど、それも仕方がない。

あれもこれもと追えるほど、私は起用ではないし。


「はぁ……」


社長からのOKが出なかったのだろう。

三村さんは紙を机に放り出すと、一度タバコを手に取った。

1本だけ中身を抜いたが、しばらく動かない。

結局、タバコは戻し、紙の上に頭を乗せてしまった。

放り投げた時に、ちらりと見えたデザイン画。


喫茶店、中でもカウンター用の椅子は高さがあるため、バランスが難しい。

それでも、テーブル席の椅子と、共通点を持たせないとならないから、

使える素材も限られてくる。


「ナラなんだよな」


材料はナラと決まっているようだった。

値段のこともあるし、普通の選択だろう。


「誰か、いいアドバイスくれないかなぁ……」


三村さんはそう言いながら、デザイン画を私の方へと動かし始めた。

少ししか見えていなかったものが、ハッキリと視界に入る。


「あぁ、せっかくいいアイデアなんだけどな……」


確かに、デザインだけを見ると、これが形になったら素敵だろうなとそう思える。


「もう少しなんだけどなぁ……平面が立体になるの」


三村さんの手に押されたデザイン画は、私の書き込んでいる資料の上を侵略し始め、

お構いなしに、書類の上を行進する。

私には、プレゼン用の資料作りを任せたと言っていたくせに、

また別の仕事まで振るつもりだろうか。



しかも、関われない『秋』以降の仕事なのに。



「誰かいないかなぁ……困っている人を助けてくれる優しい人」



……もう!



「三村さん」

「はい」


三村さんは下げていた頭をいきなり上にあげ、何かを期待しながらこちらを見た。


「はいじゃありません。らしくないですよそんな言い方」

「ん? あれ? 聞こえました?」

「聞こえているに決まっているでしょう。そんなぼやき方して。
しかも、私の書類の上にわざわざ……」

「あらあら、行進してましたか、すみませんねぇ……って悪い、
忙しいのはわかっているけれど、ちょっとだけ見てみて」


三村さんは両手を顔の前で合わせた後、すぐに社長が指摘した部分を指差した。


「これ?」

「そう、太さと長さのバランスがさ……」


どういうところが問題で、何がひっかかっているのかを聞きながら、

私はある特集記事を思い出す。


「『アトリエール』見ましたか?」

「『アトリエール』?」

「はい。確か、以前そんな記事が出ていたような……」


私は席を離れ、棚に納まっている過去の『アトリエール』から1冊を抜き出した。

そう、この表紙、確かに見覚えがある。

去年の冬、ここでココアを飲みながら、読んでいた特集記事のページを開いた。




【7-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【木暮優葉】
事務担当。年齢27歳。
笑うとえくぼが出てくる。好きなメニューは『とろりんオムレツ』。
歩くスピーカーと言われるくらい、おしゃべりが大好き。

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