7 流れる風 【7-4】

【7-4】

「ほぉ……」

「どうですか、参考になりませんか?」

「うん……なるかも」

「でしょ」


そう、『アトリエール』の解説コーナー。

子供の学習ページみたいな小さな特集だけれど、結構興味深い内容が多い。


「よく覚えてましたね、こんな記事。しかも過去の雑誌から一発で拾えます?」


三村さんは、私が席を立ち、すぐに記事を見つけてきたことに対して、

驚きの声を上げてくれた。

でも、私はこういった素材の組み合わせがあるのかと、

結構印象に残った記事だったので、覚えている。


自分の思いを表現することは下手なのに、

何を作るときに、何を参考にしたのか、

プレゼンに役に立たないことだけは、なぜか忘れない。


「形が決まっているものだと、どうしても一辺倒になってしまうので、
こういった組み合わせもいつか試してみたいと、思っていて……」


そう、伊吹さんのサブでデザインをした時、出来上がった作品を見て、

もし、別の素材だったらどうだっただろうかと、考えたことを思い出す。


「うん……」


三村さんは材料を調べると、それをまたネットで引いていく。

どれくらいの値段で仕入れることが出来るのか、どういう加工の仕方があるのか、

詰まっていた部分は、こんなことがきっかけで、前へ進み始める。


「これ、いいかも」

「……そうですか? よかった」


よかった……

そう思ったとき、机に置いた携帯電話が、いきなり鳴りだした。

私はすぐに手を伸ばし、相手を見ることなく受話器を開ける。


「はい、長峰です」


相手からの言葉は、何も帰ってこなかった。

嫌な予感がしながら、何度も『もしもし』と問いかける。

隣にいる三村さんが、不思議そうにこちらを見たので、私の方からボタンを押し、

会話にならない会話を打ち切った。


「間違いですか」

「……みたいです。失礼ですよね、名乗らないなんて」

「あぁ、そういうの結構ありますからね」


名乗らなかったのではないだろう。

名乗るつもりなど、最初からない人。

そう思いながら相手の番号を確かめると、やはりあの番号だった。



『着信拒否』



そうしようかという気持ちもあったが、やはりあの声が気になった。

それと同時に、確かめておきたいと言う感情が、沸き起こってくる。




幹人は本当に、出張なのだろうか。




私は名刺入れにある幹人の名刺を取り出し、携帯を持ったまま事務所を出た。

雨が降っているため、誰も上がってこない屋上の階段に立つ。

少し震えてしまう指をなんとかコントロールし、『林田家具』に電話を入れた。

私の名前を言ってしまったら、後から怒られるかもしれないので、

架空の名前を作り出し、生命保険の勧誘のように振舞うことにする。


『はい、林田家具 第一営業部でございます』


落ち着かないと。

ここでうわずったような声を出したら、聞きたいことも聞けない。


「もしもし、あの……ナチュラル生命の……山田と申します」

『ナチュラル生命の山田様ですね、お世話になっております』

「いえ……こちらこそ……」


心臓、頑張って。

声が震えてしまって、怪しまれるかもしれない。


「あの……黒田幹人さんは……本日いらっしゃいますか」


いないとわかって聞いている。

幹人がもしも営業部にいるとなったら、電話は切ってしまおう。

どうせ、『ナチュラル生命』は、関係ないのだから。


『黒田ですか……』


幹人は出張なはず。

そう言ってくれたら、それはそれで落ち着ける。





お願い……





『申し訳ございません。黒田は本日、有給を取っております』





『有給』





「あの……」

『明日は午後出社の予定ですので、おかけ直しいただけますでしょうか』



幹人は出張ではなかったのだろうか。

もしかしたら、日付を間違えたのだろうか。


「あ、はい」


何がなんだかわからないままで、私は受話器を閉じた。

どういう状況なのか、自分で整理がつかなくなっている。

携帯を握ったまま事務所に戻り、すぐに手帳を開く。

今日の日付をあらためて会社の掲示板で確認し、出張のマークを見た。




【7-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【木暮優葉】
事務担当。年齢27歳。
笑うとえくぼが出てくる。好きなメニューは『とろりんオムレツ』。
歩くスピーカーと言われるくらい、おしゃべりが大好き。

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