7 流れる風 【7-6】

【7-6】

『あなたが言えと言うから、言わせてもらう』




そう、言えと言ったのは私。




でも、お願い……

私の幸せを、崩さないで……




『彼とは、昨日で終わりにしたわ……』




彼……




『私は、あなたのように……』




私のように……




『彼にとって、都合がいい生き方は出来ないから……』




電話はそれだけで切れてしまった。

心のどこか片隅で、ずっとくすぶっていたことが、現実になってしまった。

幹人は昨日、この人といたのだろうか。

出張だと偽って有給を取り、私ではない人と一緒に……



『……行くぞ』



あの声も、彼女にかけた言葉。

だとしたら、その場限りの付き合いではなくて、

長い間、同じ時間を過ごしてきた人だと、思えてしまう。



『彼にとって、都合がいい生き方は出来ないから……』



幹人の意見に逆らうこともせず、仕事も辞める私。

彼の人生を支えることが幸せなのだと、ずっと心に言い聞かせてきた。

それは、幹人にとって、『都合がいい』ということだろうか。


「長峰さん……」


三村さんが横にいるのに、どうしよう、涙が出てしまう。

どうにかごまかさないとならないのに、反対側へ向こうとしたら、

こちらに向かってくる人と、思い切りぶつかった。


「あぶないなぁ、何しているんだよ、前を見ろ」

「すみません……」


それほどのスピードで歩いているわけではないのだろうが、

目の前の人を、よけることさえ、難しく思えてしまう。

ふらつく私を、三村さんが人の波と逆方向に引っ張った。



違う、事務所は反対にある。



「三村さん、私、仕事に行きます!」

「顔色、真っ青ですよ」

「そんなことはありません。大丈夫です」

「大丈夫だとは思えませんが……」

「……ほっといて」


そう、私のことはほっといて欲しい。


「そんな表情で上へ行ったら、みんなが心配する。
長峰さん、あれこれ聞かれて、答える用意があるの?」


三村さんに腕をつかまれたまま、私は言葉とはうらはらに抵抗が出来なかった。

止められない涙が、頬をつたっていくのがわかる。

泣くまいと思っても、コントロールがきかない。


「ほっといてください……」


何も考えたくない。どこでもいいから、何もない場所へ行きたい。


「ほっといたら、どうなるのかわかる……だからほっとけない」



どうなるのかわかるって、わかるわけがない。

今の私の気持ちなんて、あなたにわかるわけがない。



「わかるわけがないでしょ!」



振り絞れる力を全て腕に込め、私は三村さんの手を振り払った。

あなたに何でも見抜かれたように、されるのはもう迷惑なのだから。



「……あなたに……今の私の気持ちなんて、わかるわけがない」



わかるわけがない……



叫んだ私にひるむことなく、三村さんは道路に身を乗り出し、手をあげた。

1台のタクシーが目の前に止まる。


「乗ってください」

「乗りません。行かない! 行く理由がない!」

「理由なんて、いくらでも説明します」


私は、自分の意思とは関係なく、三村さんに押し込まれる。

三村さんはその隣に乗り込むと、とにかく走り出してくれと運転手に告げた。




離れていく、いつもの道。

離れていく……


私と幹人の距離。




この距離を埋めることが、私に出来るのだろうか……




【8-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【木暮優葉】
事務担当。年齢27歳。
笑うとえくぼが出てくる。好きなメニューは『とろりんオムレツ』。
歩くスピーカーと言われるくらい、おしゃべりが大好き。

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