9 意地の張り合い 【9-1】

9 意地の張り合い

【9-1】

『大学の同級生で、1級建築士の女性』



幹人から聞いた情報は、たったこれだけだ。

どこに住んでいるのかなど、もちろん知らない。

でも、女の直感だろうか、

私には目の前の萩尾さんが、その相手だと思えてならなかった。

そうでなければ、『未来有望で誠実な男性』などと、初対面の人物に言うだろうか。



誠実ではない……



そう思っているからこそ、言えるセリフだろう。


「お忙しいところをすみません。私が建築を依頼されている家の、
備え付けの家具をデザインしていただきたいのです。予算はある方なので、
素材選びも含めて、色々と自由にしていだたけると思うのですが……」

「はい」


縛りのない自由な発想が出来る仕事。

今の時代、予算を決めてもさらに削られたりすることの方が多い。

それをオープンにというのだから、やりやすいことは間違いないはず。

でも……


「大変、魅力的なお仕事で、私自身も気持ちが動くのですが、申し訳ありません。
本当に、これからお受けすることは無理なのです」


中途半端なことは出来ない。

今、ここでしっかりと断っておかないと。


「えぇ、今、長峰さんの事情は社長からうかがいましたよ、
でも、私はあなたにお願いしたいのです。
お忙しいことも承知なので、スタートだけ関わっていただけたらそれで結構です。
あとは……そうね、あなたの同僚に引き継いでくださらない?」


萩尾さんは、どうしても私に仕事をして欲しいと譲らない。

社長は、願ってもない仕事なので、どうにか『DOデザイン』が関わりたいと、

色々な人たちの名前を出すが、萩尾さんは、私が関わらないのなら仕事も振らないと、

意見を変えようとはしない。

伊吹さんや小菅さんの方が、絶対にいい仕事になるはずなのに。

なぜ、この人がこんなことを言うのか、誰も本心はわからないだろう。


「萩尾さん」

「はい」

「私は、ご期待に応えられるようなデザイナーではありません。
ここにいるみなさんの方が……」

「……俺、引き継ぎますよ」

「三村さん……」

「それだけ、長峰さんのデザインにあなたがこだわると言うのなら、
俺が引き継ぎます」


三村さんは、今の話を聞いていたのだろう。

まぁ、元々小さい事務所なのだから、聞くつもりはなくても耳に入る。


「まぁ、引き継いでくださいますか?」

「……はい」


萩尾さんは嬉しそうに立ち上がり、社長と私に出した名刺を、

同じように三村さんに差し出した。

三村さんはそれを受け取り、頭を下げる。


「よかったわ、私の思いを理解していただいて」

「あの……一つだけお聞きします」

「はい」

「うちの長峰のデザインを、萩尾さんはどこで評価されたのですか」


そう、私は名だたる賞を今まで一度も取ったことがないし、

有名な作品を世に送り出したわけでもない。

その私を指名してくるなど、よく考えてみたらおかしな話だ。

何か裏があると、思うのもおかしくはない。


「それを今、ここで言わなければならない?
誰にどう仕事を頼むのか、誰をどう評価するのかは、私の考えでしょ」

「はい。その通りだと思います。でも……」

「でも?」

「デザイナーにとって、評価を受けるというのは、非常に嬉しいことですから。
萩尾さんが長峰の何を見て評価してくれたのかがわかれば、それは長峰にとっても、
事務所にとっても、プラスに働きます。この作品のこういった部分だとか、
以前仕事をしたときにこうだったとか。でも逆に……」

「逆?」

「堂々と言えないとされてしまえば、
何か他に、仕事を振る理由があるのかと、探りたくなるのが人ではないでしょうか」


三村さんは、確信しているわけではないけれど、

この萩尾さんが『何か』を考えてここに来たことに、薄々気付いている。

だからそんなふうに尋ねていくのだろう。





萩尾さんが私を選ぶ理由。それは……





「うふふ……」


萩尾さんは、言われたことに納得したのか、小さく何度か頷いた。




【9-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【矢沢聖子】
喫茶店『COLOR』のママ。年齢は秘密。
ここのお店はすべて『DOデザイン』が作った家具を使っているため、
社員もランチによく利用している。

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