11 私の味方 【11-1】

11 私の味方

【11-1】

『和歌山に行く』

私はあらためてそう心に決めると、事務所に連絡を入れた。

優葉ちゃんが取るかと思っていた電話からは、三村さんの声が聞こえてくる。


「長峰です」

『あ、はい』


三村さんには、事情を説明しないとならないことくらい承知しているけれど、

今、この場で語れるような気持ちがしなかった。

三村さんは、こちらの言葉を待っているのか、何も言ってはくれない。


「すみません、社長か塩野さんは……」

『社長は伊吹さんと打ち合わせで出ています。塩野さんは……』


塩野さんがどこにいるのかと、三村さんが誰かに尋ねている声がする。

塩野さんが席を外すなんて、珍しい。


『塩野さん、銀行回りをしているようですが』

「あ……そうですか」


ホームに1台の電車が止まる。事務所よりも、和歌山へ近づける電車。


「三村さん」

『はい』

「『エアリアルリゾート』の仕事、今日と明日って特に動きはないですよね」


私は、一緒に取り組む仕事に影響があると困るので、スケジュールを尋ねた。

私が聞いていることに変化がなければ、問題はないはず。

三村さんは特にないと思いますが、と、言葉を返してくれる。


「あの……」

『はい』

「萩尾さんの方は、東京に戻ってきてから話します」

『は?』

「これから、和歌山へ行ってきます。祖父が仕事中の事故で怪我をしたらしくて、
たいしたことはないと思うのですが、年齢もあって心配なので、
顔だけでも見てこようかと」

『長峰さん……』

「突然ですみませんが、社長と塩野さんにお伝えください」

『あ、長峰さ……』


私の方から、電話を切った。発車ベルの鳴る電車に、そのまま飛び乗っていく。

こんなことをしても、何も解決するわけはないけれど、

この場に立っていることが、日々の中にいることが辛かった。


どこを見ても、どう歩いても出口がなくて、

ただ迷路の中をうろうろしているだけのような気がして。

携帯電話をマナーモードにし、持っていたバッグの一番奥に押し込み、

そのまま空いている椅子に座る。

私はただ、揺れに身を任せたまま、バッグをしっかりと抱えた。





『和歌山県』

山も海もあり、自然が豊かなところだけれど、その分交通の便はよくない。

伯父の家がある最寄り駅まで行く次の電車は、今から25分後。


「25分後か、まぁまぁかな」


出発したのは昼前なのに、もう、すぐに日が暮れそうな時間までかかり、

やっと駅まで到着した。途中で電話をしたため、伯母が迎えに来てくれて、

改札の向こうで手を振ってくれる。


「いやぁ……知花、久しぶり」

「ごめんね、急に来て」

「いやいや、こっちこそごめんね、電話をしたからさぁ、逆に心配かけてしまって。
それでも、おじいちゃんは喜ぶよ。知花が心配して来てくれたって言ったら」


病院の面会時間には間に合わないと言うことになり、

その日は伯父の家に泊めてもらうことにした。


「あ、そうそう。真子さんから電話が入ったよ」

「お母さんから? エ……どうしてだろう、何も言っていないのに」


迫田の家に着いたら連絡をしようと思っていたが、

先にかかってきたと言われ正直驚いた。

伯父の家について、実家にいる母に連絡をすると、その理由がわかる。


「式場から?」

『そうなの。知花がお願いしたブーケの会社、トラブルがあったらしくて。
同じデザインが出来る別の会社にお願いしてもいいのかどうか、
携帯に連絡を入れたようだけれど、出ないからって……』

「あ……」

『私も携帯に連絡したら、確かに出ないでしょ。
何かあったのかと思って事務所に電話をしたら、『和歌山へ行きました』って聞いて』


そういえば、携帯電話。マナーモードにして、押し込んだまますっかり忘れていた。

私は受話器を持ったまま、バッグの中から携帯を取り出してみる。

着信記録の中に、確かに式場の番号が入っていた。


「あ……着信あった、ごめん」

『ごめんじゃないわよ、明日にでも連絡してね』

「わかった……」


東京に戻り、結婚式の招待状を出すこともあるし、

挨拶をしてくれる人も、決めなければならない。



『結婚式』に向かって、私たち以外の場所でも、もう動き出している。



『ねぇ、知花。急に和歌山まで行くなんて、何かあったの?』


何かがあったのかと聞かれて、『ある』とは言えなかった。

ここへ来ようとしたのは、あくまでも衝動的な心の動きで、解決ではない。


「だから、おじいちゃんに会いたくなったの」

『……本当に?』

「そうよ。私がおじいちゃん贔屓なの、知っているでしょ」


それならいいのだけれどと返事をした母は、伯母に電話を変わって欲しいと言った。

私は受話器を伯母に渡す。


「いいって、いいって。私が電話なんかしたからさ」


母は、義姉になる伯母に申しわけないと言っているようで、

伯母はどうってことないよと笑顔で返事をしてくれる。

血のつながりはないのに、私は昔からこの伯母が大好きだった。

おじいちゃんも、いい嫁さんだといつも褒めている。

義理の姉妹の電話は、最後は互いに笑い声で終了した。




【11-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【戸波陽平】
紘生とは、共通の知り合いがいたことで交流を持つようになったが、
互いに惹かれ合うものがあり、今では『親友』と言える間柄に。
古いものを新しくよみがえらせる技術と、センスを持つ男。

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