11 私の味方 【11-2】

【11-2】

「あ……知花ちゃん、久しぶり」

「亜紀ちゃん、今日はお世話になるね」


迫田家には、私より3つ年下の娘、亜紀ちゃんと、

私より1つ年上の息子、賢哉さんがいる。賢哉さんは、今日たまたま組合の仕事で、

大阪に出張中だった。


「これでいい?」

「ありがとう、ごめんね突然で」

「いいって、いいって」


今日は着替えもないため、亜紀ちゃんの服を借りて寝ることにした。

迫田家のみなさんはみんな、心があったかい。

その日は、伯母の美味しい料理をご馳走になり、

仕事から戻ってきた伯父の晩酌に、亜紀ちゃんと一緒に付き合った。





迫田家2階の客間。

私がまだ小さい頃は、ここに布団を敷き詰めて、父や母や知己と一緒に並んで眠った。

朝早く起きて、おじいちゃんと山に入るのが楽しみで、寝付けなかったこともある。

何か、特別にすごいものがあるわけではないのに、東京とは空気も風も、水も、

何もかもが違う気がして、ただ、夜の景色を眺めているのがもったいないと思い、

私は窓を開けた。

そばにある携帯電話には、メールの印も出てこない。

私が今日、萩尾さんのところに行ったことは、きっとまた幹人に伝わっているだろう。

こう言ったらこう言い返したと、事細かに説明されているだろうか。



なぜ、トライアングルなのだろう……



私と幹人、私と萩尾さん。

本来は線同士で、交わらないはずなのに……


「明日、晴れるといいな」


私は携帯を枕の下に置くと、その日は目を閉じて眠れる時間をひたすら待ち続けた。





「……知花! 知花がどうしてここにいる」

「お義父さん、知花がね、心配して東京から飛んできてくれたよ」

「は? なんでだ、また」


何をしているんだと言いながらも、祖父はとても嬉しそうだった。

ギプスで固められた足を、動かそうとするので、

そういうことをしていると治りが遅くなると、伯母に注意をされる。


「何言ってるんだ、知花に弱いところなんて見せられるか、なぁ、知花」

「おじいちゃん……」

「知花のね、結婚式に出られなくなったら困るでしょって言うと、
おとなしくなるからね。すごいよね、知花のパワーは」



私の結婚式……



「当たり前だ。あの知花が嫁さんになるんだぞ。
小さい頃は山や木にしか興味がないように思えたけれど、
その知花が、それよりも大事なものが出来たって、連絡をくれたんだ。
俺は見届けないと、心配であの世になんて行けないだろう」

「お義父さん、何を言ってるんだか」



『大事なもの』

幼い頃から大好きだった山や木よりも、大切なもの……

だから私は、幹人についていく。


「幸せにならないとダメだぞ、知花。爺ちゃんに、小さい頃から見せていた、
ニコニコのいい笑顔で、嫁さんになってくれよ」

「おじいちゃん……」

「知花が、毎日あの笑顔でいてくれるなら……」

「あら、お義父さん、そのセリフは結婚式で言うんだって、ほら……」

「ん? ありゃ……」



『俺が『DOデザイン』に入ってから、初めてみるくらいの楽しそうな表情だったので、
つい、描いてみたってとこです』



戸波さんの工場に連れて行ってもらった日。

三村さんが、木片に私の似顔絵を描いてくれたことがあった。

私がとっても嬉しそうな表情だったと、そういえば言っていたっけ。


「幸せ……って」

「ん?」

「ううん……ごめん」


私がいることで、無理をさせてはいけないと思い、

祖父の病院にいたのは、30分ほどだった。

私は伯母と車に乗り、家に戻っていく。


「あ、伯母さん、ここで下ろしてくれない」

「ここで? どうして」

「ここから家まで、少し山を歩きたいの。元々和歌山へ来たのはその意味もあって」

「山を?」

「うん……仕事でね、ちょっと行き詰っているのよ。なんだかわからないけれど、
昔から、山に入ると私、心が安心するのか気持ちが切り替わるって言うのか、
とにかくいい方向に動くことが多くて。今からなら歩いていても、
お昼くらいには家まで戻れるでしょ」

「まぁ、そうだろうけれど、でも……山登りの格好ではないし」


伯母さんは、少し雲行きがよくないので、

辞めた方がいいのではないかとそう言ってくれた。

確かに、空を見上げると、不機嫌そうな雲が、私の上に広がりつつある。


「奥には入らないから大丈夫。少し、山の空気を吸って帰りたいの。
散歩させるつもりで……ね」


少し強引に車から降りると、私は一度背伸びをした。


「それじゃ、気をつけなよ、知花。電話くれたら迎えに来るからさ」

「大丈夫だよ、歩いていくから」


祖父と車でよく向かった場所は、もっと奥、

そこまで行っていたら、昼に迫田家へは戻れない。

道路が見える場所から、一つだけ奥に道を進めると、

そこから急に緑の匂いが広がりだした。




【11-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【戸波陽平】
紘生とは、共通の知り合いがいたことで交流を持つようになったが、
互いに惹かれ合うものがあり、今では『親友』と言える間柄に。
古いものを新しくよみがえらせる技術と、センスを持つ男。

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