11 私の味方 【11-4】

【11-4】

「お母さん……」


私には、今の状況が全くわからない。


「どうしてここへ?」

「どうしてじゃないわよ。今朝、一番の飛行機で飛んできたの」

「一番の飛行機?」

「そうよ」


話が全く見えてこない。母とは昨日も電話で会話をした。


「昨日……電話」

「そう、事務所に電話をしたわよ。ブーケのことを言おうとして。
その時にね、実は三村さんが出てくれたの。
知花が、急に和歌山へ行ってしまったのは、もしかしたら、
自分が追い込んだせいかもしれないって」

「……三村さんが?」

「仕事のことで、きついことを言ってしまったって、謝ってくれた。
和歌山へ行く理由を聞きたかったのに、途中で電話を切ってしまったって。
自分がかけて聞くことも出来るけれど、知花がきっと嫌がるだろうから、
だから、話を聞いてあげて欲しいって……」


確かに、三村さんと話しているのが辛くて、私は途中で電話を切ってしまった。

でも、三村さんに怒られたから、強いことを言われたからではない。

あの時は、自分が情けなくて、悔しくて、どうしようもなかったから。


「だから昨日、電話で話をしようとしたけれど、知花、具体的には話さないし。
まぁ、あんたは昔からすぐに何でも言う子ではなかったけどね。
仕事を途中で放り出してこっちへ来ただなんて、やっぱり心配で。
おじいちゃんのお見舞いもウソだとは思わなかったけれど、
きっとそれだけじゃないはずだって、お父さんも」


お父さんも……


「もう、知花! お母さん、本当に心配して飛んできたんだからね。
思うことがあるのなら、遠慮なんかせずに言いなさい。我慢することないんだよ」

「お母さん」


母は、私が汚れてしまっている理由を、別のものだと勘違いしているように思えた。

私は、人生が嫌になって、諦めてしまって、こんなことになったわけではない。


「ごめんね真子さん。私が悪いんだよ。知花が山へ入るって言ったときに、
止めるべきだった」

「伯母さん……」

「義姉さんは悪くなんてないわよ。
むしろ、黙って受け入れてもらえてよかったのだから」


二人にこれ以上心配させるわけにはいかないため、私は車に乗り込み、

足元がぬかるんで滑ったこと、携帯がくぼみに落ちてしまったことを順序良く告げた。



昼にはこちらを出る予定だったのに、結局、また、戻ってきてしまった。

伯母は、母と私を二人だけにするため、裏の倉庫へ行ってしまう。


「ごめん、心配かけて」

「本当だよ、もう。三村さんが言うように、本当に仕事で追い込まれて、
心が折れてしまったかもって……お母さん、必死に来たんだから」

「うん……」

「ねぇ、知花。
三村さんってさ、あの衣装合わせの日、交差点で会った男の人でしょ」

「うん」


そうだった。衣装合わせの日。母は、せっかく出てきたのだから

会社に挨拶をすると言い、小菅さんと三村さんに途中で会った。


「あの人に、何言われたの?」


何を言われたか……

仕事のことを。言われたことは言われた。でも……


「三村さんのせいじゃないの。トラブルがあったのは事実だけれど、それは……」


萩尾さんとの仕事、ダメ出しばかりだったけれど、

それでも辞めたいとは一度も思わなかった。

むしろ、次はどうしようかと頭を悩ませている自分が、充実していて、

それが出来なくなることが悔しく、飛び出した。


「知花……」

「何?」

「思っていることがあったら、口に出すこと……
それはずうずうしいことでもなんでもないの」

「お母さん」

「黙っていても、わかってもらえないことだってあるし、
気付いてもらえなければ、辛いのは知花だよ」


他の人なら、『大丈夫だよ』と意地を張れるのに、

誰よりも信頼している母だからこそ、気持ちが一気に崩れてしまった。

押さえ込んでいたものが、感情のままに流れてしまう。


「お母さん……」

「お母さんは、知花が悩んでいるのなら、一緒に悩んであげたいの。
それで、周りのみなさんに怒られるようなことが起こるのなら、
一緒に、何度でも謝ってあげるから……」



私……



「どんなときも、お母さんもお父さんも、知花の味方」




私は、一人じゃない。母の言葉に、心からそう思うことが出来た。

私が息苦しく辛くなるのは、どう歩いても、出口が見つからない気がするのは、

仕事がうまくいかないからではない。


「わかった。お母さんにはきちんと話すから」

「うん」

「もう少しだけ……待って」

「知花……」

「ごめん、別に逃げているわけでも、言いたくないからでもないの。
今、考えていることが本当の気持ちなのか、自分で整理する時間が欲しいから」


母は、それ以上私にあれこれ言うのは、また追い込むことになると思ったのか、

そこからはくだらない家族の話題を、色々と並べてくれる。



私は、結局もう一日、迫田の家にお世話になった。




【11-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【戸波陽平】
紘生とは、共通の知り合いがいたことで交流を持つようになったが、
互いに惹かれ合うものがあり、今では『親友』と言える間柄に。
古いものを新しくよみがえらせる技術と、センスを持つ男。

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