11 私の味方 【11-6】

【11-6】

『続ける?』

「うん。幹人が心配してくれるのはありがたいけれど、萩尾さんとの仕事、
どうしてもやりたいの」

『知花……あのさ』

「私、お客様のために、いいものを残したいの」


1週間、このことだけを考えたいからと、私は幹人に電話をした。

萩尾さんにも何も言わないで欲しいと、そう告げる。


幹人の行動に対して、制限をつけるのは初めてだった。

今まで、一度も彼の行動を間違っていると思ったことなどなかったけれど、

ここは譲れない。


『わかったよ、知花がそういうのなら黙っていることにする。
でも、くだらない意地で自分の体を痛めるなんて、ばかばかしいぞ。
君が何よりも考えないとならないことは、別のことなはずだろう』

「……うん」


幹人には、今の私の気持ちが、どれくらい見えているのだろう。

そう問いかけたい気もしたが、今は、萩尾さんの仕事だけを考えたい。



1週間。

きっと、私の答えは、その後に出てくるから。





「おはようございます」

「おはようございます」

「行きますよ、長峰さん」

「どこにですか」

「どこって仕事に決まっているじゃないですか」


1週間宣言をした次の日、いきなり三村さんに外へ向かうと言われてしまう。


「外? でも、デザインを描かないと」

「わかっていますよ、戻ってこないとは言ってません」



三村さんと二人。



ふと、昨日のことを思い出した。

差し出した手を握ってくれた後、私は……



三村さんに引き寄せられた。



同僚として、そして、私が落ち込むかもしれない原因を作ったのが自分だから、

その責任感を感じてのことだとはわかっている。

でも、昨日の今日だから、少し緊張してしまう。


「どこに行くのですか」

「つけばわかります」


どこに行くのか教えてもらえないまま、車はどんどん走り出す。


「三村さん、私がデザイン仕上げるの遅いこと、ご存知ですよね」

「まぁ……そうですね、知っています」

「でしたら」

「頭ってギューギュー詰めてばかりいると、うまく機能しなくなると思うんですよ。
たまには発散しないと」


確かに詰めすぎはまずいだろうけれど、でも……


「暑くなりそうですからね、涼しいところに行きましょう」


私の意見はまるっきり無視されたまま、車は走り出し、

都会のゴミゴミした景色は、どんどん緑色に変化し始めた。





山道を登りだしてしばらくすると、景色の変化とともに、気温まで変わり出した。

私たちは車を止め、そこから歩き出す。

同じ山でも、私が知っている和歌山の山とは全く違っていて……

でも、頬に当たる風は同じように、爽やかな気がする。


「静かにしてみてください。水の音、聞こえるでしょ」


そう言われ耳をすませると、確かにどこかからか水の音がしていた。

一応あちこち顔を動かしてみるけれど、それらしき箇所は見つからない。


「どこにあるのですか?」

「こっちです」


三村さんは石で出来た階段を下りていく。

私もそれについていくと、緑のカーテンを抜けた先に、小さな滝があった。

水の量はそれほど多くないけれど、涼しく感じるには十分。


「うわぁ……かわいい滝ですね」

「でしょ。水、触ってみてください」


私は左手を少し伸ばす。中指の先に触れた水は、確かに冷たかった。


「すごい……ピリッとくるくらい冷たい」

「雪解けの水だそうです」

「へぇ……」


山の上に降った雪が、地面を通り、水となってここに出てきている。


「気持ちがピシッとしませんか?」


緑の空気と、冷たい水。確かに気持ちがピシッとする。


「はい」


自然の大きさとか、強さとか、こんなところからも感じることが出来た。

事務所から車で走った距離が、はたしてどれくらいなのかわからないけれど、

でも思っていたより、離れていない気がする。

頭の上から聞こえてくる、小鳥のさえずり。

少し脚を伸ばせば、頑張って歩けば、こんな場所があるなんて。


「長峰さんの作ったチェスト。俺にはこんな空気を感じることが出来ました。
素朴だけれど、それでいて力強くて。『木』を使った、
自然のよさが、出ていたんですよ、荒削りだけれど……」


私のチェスト。

初めて真剣に木と向き合い、相手のことだけを思い、作品として完成させた。

今思えば、もっと改良する部分もあったかもしれないが、

規則やルールにとらわれなかったぶん、『色』も出せた。


「さて、のんびりしている時間はないですから、次に行きましょう」

「はい」


三村さんが、次に連れて行ってくれたのは、

その小さな滝から、山をくだる途中の、小さな『オルゴール』を扱うお店だった。




【12-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【戸波陽平】
紘生とは、共通の知り合いがいたことで交流を持つようになったが、
互いに惹かれ合うものがあり、今では『親友』と言える間柄に。
古いものを新しくよみがえらせる技術と、センスを持つ男。

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