12 虹の彼方に 【12-1】

12 虹の彼方に

【12-1】

「オルゴールの店ですか」

「はい。昔、デザイン学校で一緒だった友人が教えてくれました。
俺もここへ来るのは、10年ぶりくらいです。よかった、まだあって」


三村さんはそういうと店内に入り、

『オルゴール』の材料が並ぶ棚の作りを、何やら見始めた。

木の肌を生かした組み立ては、まだ香りも漂う気がしてしまう。


「オルゴールかぁ……」


本物の木を手彫りして作られたケースは、大きさも色々で、

『オルゴール』だけのものや、右側に小物が入る作りになっているものもあった。

日曜日などは、ケースに自分で彫刻する体験イベントもあるらしく、

壁には予約方法が書いてある。


自分のお気に入りを合わせ、ひとつしかない『オルゴール』を作る。

店内にいた2人の女性客は、ケースをあれこれ選び、曲をどうするかと悩んでいた。


私も、試しにかけられるオルゴールを、いくつか回して見る。

心地よい、癒しの音。

金属同士なのに、どうしてこれだけ綺麗な音が出るのだろう。



『Over the Rainbow』



色々な曲が用意されている中にこれを見つけ、手に取った。

これは、『オズと魔法使い』の中で流れる曲。



虹の向こうには、きっと素敵な場所がある。

だから、鳥が飛んでいくように、私もその場所へ向かうのだと、

主人公のドロシーが、希望を歌い上げる。



私がこれから乗り越えようとする先にも、虹の向こうにあるような、

希望の場所があるだろうか。



曲を奏でたオルゴールを手に取ったまま、さらに手彫りの音符がかわいい箱をつかむ。

1回、30秒ほどの、優しい癒し。


「すみません、これでお願いします」

「はい、少々お時間をいただきますが、よろしいですか」

「はい」


私はお店の方に品物を渡すと、空いた時間を有効に使おうと、

周りを歩くことにした。小さなテーブル、太くて丈夫そうな脚を持つ椅子。

そして、使い込んだ雰囲気のある戸棚。

どこからどう見ても、この場所にあるべきものだとそういう気がした。

人が手を加えているから家具なのだけれど、それだけではない。


店内では、三村さんが何やらしゃがみこみ、テーブルの脚をじっと見ている。

私もこういう場所が好きだけれど、あの人も相当好きなのだろう。

後ろを通る女性客が、全く動かない三村さんに対して、

不思議そうな顔をしているのに、全く気にする様子もなくて……


「……クスッ」


荒削りでも、未完成でもいい。思い切り材料に向き合ってみよう。

そうすればきっと……



私はそう思いながら、ベンチに座り自然の風を感じ続けた。





『Over the Rainbow』

三村さんと帰る車の中で、何度かオルゴールを鳴らしてみた。

透明感のある音が、優しく響く。


「『虹の彼方に』……ですか」

「はい……あ、うるさいですか」

「いえ……」


詰め込みすぎていた時間の中に、見つけた小さな癒しの音。


「ありがとうございました」


三村さんから返事は戻らない。でも、絶対に聞いている。


「明日からも、よろしくお願いします」


明日からは、『最後の戦い』。

私はそう思いながら、もう一度オルゴールを回した。





「……どうですか?」

「俺の意見、聞いているんですよね」

「はい、もちろんです」

「なら、バツです。甘いでしょう、この構図だと」

「甘いですか? でも……あ、いえ、いいです。まだ出来ますから」

「……だと思いますけど」


リフレッシュの旅から戻った後は、

ただ、デザインと向かい合う時間だけしかなかった。

頭の中には、イメージがあれこれ浮かんでいるのに、それがどうしても表現しきれない。

素材にも制限があるし、予算にも限界がある。


「知花ちゃん、まだ頑張るの?」

「はい、もう少し」

「そう……それなら先に帰るね」

「お疲れ様です」


伊吹さんが、社長と打ち合わせで先に会社を出たあと、

優葉ちゃんや塩野さんが続いて退社した。そして、小菅さんも今、事務所を出て行く。

三村さんは『NORITA』に行ってしまった。

事務所の中は、私一人。


「あぁ……肩が凝った」


テーブルの方に向かい、コーヒーを入れる。

一枚板のテーブル。戸波さんのところから三村さんが持ち帰った。

カップを手に持ち、席に戻り、机の引き出しを開ける。



『Over the Rainbow』



金属の動きを止める金具を横にずらすと、曲が流れ出す。


この仕事をやり遂げられたら、きっと……その後の道が見えてくる。

そう、今は信じて……


「よし、もうひとふん張り」


オルゴールは、スイッチを切るまで何回も曲を奏で続ける。

私はそれからもデザインと向かい合いながら、何度か曲を聞いた。




【12-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【萩尾香住】
一級建築士。年齢32歳。
幹人とは大学時代の同級生。仕事で再会し、知花の存在を知りながらつきあってきた。
幹人が選んだ女性を見てやろうと思い、『DOデザイン』へ仕事の依頼をする。

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