12 虹の彼方に 【12-2】

【12-2】

「おはようございます!」

「おはようございます」

「三村さん、これを見てください。どうですか?」


萩尾さんのところに向かう2日前、私は完成したデザインを三村さんに見せた。

これでダメだしされたら、全てを振り出しに戻すしかない。

三村さんは黙ったままで、私のデザインを見つめている。



何も言われない時間。

でも、三村さんが考えてくれている時間。



私は、今出来ることを、出来る限りの思いを込めて、描きあげた。


「おはよう、知花ちゃん」

「うん……」


優葉ちゃんに挨拶をされたけれど、ここを離れるわけにはいかない。

通るのか、通らないのか。


「長峰さん」

「はい」

「……いいですね、これ」

「いいですか?」

「いいですよ。素材の生かし方も変わったし、
俺、こんな重ねが出来るとは、正直、考えたことがありませんから」

「本当ですか?」

「ずいぶん変えましたね、始めのものと」

「……はい」


無理に変えたのではなくて、自然と考えが変わった。

それはきっと、私の視線が、昔のように純粋になれたからかもしれない。

受け入れてもらえるのかどうかなど、細かく気にしなかったあの頃。

ただ、『木』を見るのが好きで、『木』を形にするのが好きだという自分。



『最後』は、自分が納得したものを送り出したいから……

私は私だと、頷けるものが欲しいから。



「あとはアピールですね」

「はい」

「しっかりとよさを伝えてください。その後は……俺が引き継ぎます」


私は『ありがとうございます』と頭を下げ、出来上がったデザイン画をケースに入れた。

これなら、萩尾さんに思いを伝えられる。

私が表現したかったことを、語ることが出来るから。


「三村さん」

「はい」

「色々と、ありがとうございました」


三村さんがいなかったら、私は結局、

またいつものように、いじけて終わっていた気がする。

遠慮などなく、悪いものは悪いとぶつけてくれる人がそばにいてくれたことで、

凝り固まっていた気持ちも、角度を変えることが出来た。


「これを、萩尾さんが納得してくれるのかどうかわかりません。
発注しているのは向こうですし、でも……」


始めから、幹人とのことがあって、私に振ってきた仕事。

どこまで本気なのか、そのあたりも見えてこないところがある。


「それでも、久しぶりにやりきったという満足感があります」


そう、全てを出し切った。

正直、ゼロに戻されても、これ以上のアイデアは出てこない。


「三村さんがバツを出すと悔しいけれど、でも、また立ち上がろうと思えるから。
私はやっぱり、この仕事が好きだって、そう再確認できました」

「長峰さん……」

「最後の一押し、このデザインで勝負してきます」


私は三村さんに、あらためて頭を下げた。





久しぶりに早く部屋に戻り、本棚の一番右にある、懐かしいアルバムを開いた。

幹人との出会いから今日までが、懐かしい写真で蘇る。

出会った頃、私の髪はもっと短かったし、幹人はもう少しふっくらしていた。

一緒に出かけた映画の半券、遊園地のフリーパスのチケット。

楽しかった思い出を、こうしてアルバムに収めてきた。

時を重ねてきた日々は、長かったような短かったような。


「……はい」


インターホンが鳴り、私はアルバムを閉じる。

千葉の実家から、母が送ってくれた野菜が、手紙と一緒に届けられた。





それから2日後、萩尾さんとの約束の日が来た。

私が『勝負』出来る最後の日。


「萩尾建築事務所に行ってきます」


事務所に残っていた伊吹さんに、萩尾さんのところへ行くことを告げ、

私は一人、事務所を出た。




【12-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【萩尾香住】
一級建築士。年齢32歳。
幹人とは大学時代の同級生。仕事で再会し、知花の存在を知りながらつきあってきた。
幹人が選んだ女性を見てやろうと思い、『DOデザイン』へ仕事の依頼をする。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント