12 虹の彼方に 【12-5】

【12-5】

その週末、千葉の実家に戻り、父と母にここまでの気持ちを話した。

今まで幹人を信じ、この人を支えることが自分の幸せだと思ってきたけれど、

そうではなかったことに気付いたと説明する。

父は黙ったまま話を聞き続け、母は落ち着かないのかお茶を入れなおしたり、

意味もなく立ったり座ったりを繰り返して……


「ごめんなさい。二人で挨拶もしたのに、こんなことになって」

「そんなことはどうでもいいけれど。黒田さんは納得してくれたの?」


納得……


「ううん、気持ちは話したけれど、よく考えてくれって言われただけで」

「よく考えて?」

「そう……でも、私の気持ちは変わらないから」


簡単に変わるような気持ちなら、幹人に宣言したりしない。

考えて、考えて出した結論。


「本当に、それでいいの?」

「うん……」


今までの色々な違和感が、ひとつの答えにまとまった。


「知花……言いたいのは、今聞いたことだけ?」

「どういう意味?」


幹人と萩尾さんのことは、親には言わなかった。

いや……言えなかった。


「……だって、知花」

「辞めなさい。知花が決めることだ。私たちがどうのこうの口を挟むことじゃない。
結婚するということは、相手を心から信頼することだろう。
それができないと言うのなら、無理にする必要などない」

「それは私も思いますよ。でも……」


母は、和歌山へ急に飛んでいったことなどから、私の語っている以上のことが、

理由として存在するのだろうと、薄々感じているように思えた。

父もそう思っているけれど、無理に聞きだす必要もないと、考えている。


「仕事は? 結婚をやめるのなら、続けられるの?」

「……ううん」

「ダメだって?」

「聞いていないけれど、それはずうずうしいと思って。
だって、結婚をやめますから、退職もやめますなんてこと、申し訳ないよ。
実際、私がいなくなってからというイメージを作って、
すでに動き出しているものもあるし」


正直、続けたい気持ちは持っている。

でも、変に残れば、みんなに気をつかわせるだけだろう。

心からお世話になったと思える人たちだからこそ、迷惑をかけたくはない。


「それじゃ、どうするの? こっちに戻る?」

「まだ、具体的には考えていない。ごめん……少し考えさせて」


どんな会社でもいいから、デザインに関われたらいいとは思うけれど、

現実は難しいだろう。和歌山の伯父の家に出かけた時、

以前より林業が持ち直していることも聞いた。

デザインは無理でも、『木』に関われたらとも思うが、

それにはまた、向こうで甘えなければならなくなる。


「黒田さんとのこと、どれくらいから悩んでいたの?」

「結婚を辞めようと思ったのは、ごく最近なの。
でもそれは、そこに自分が気付いたってことで、悩み始めたのはもっと前だったかな」

「そう……」


仕事をさせてもらえないからなのか、萩尾さんとのことがあったからなのか、

どこか一番のポイントなのか、わからないところもあるけれど、

積み重ねてきたものが、あふれてしまった。


「心の中にしまいこんでいるつもりだったのにね、弾けとんじゃった。
三村さんが言っていたように」


そう、弾け飛んでしまった。

あの『ストレス性の過呼吸』も、その現れだろう。


「三村さんも、本当は継がないとならない家の商売があったのに、
大好きな仕事がしたくて、弾けてしまった一人なのよ」

「商売をしているの、三村さんの家」

「うん……そうらしい。何をしているのかは知らないけれど」


何をしているのかは聞かなかった。

人の人生に、あれこれ興味を持てるくらいの余裕が、今の私にはない。


「知花、よく決断したな」

「……お父さん」

「これからの人生は、お前の思うように進めてみなさい。
無理にまっすぐ進まなくてもいい。曲がっても振り返ってもいいから、
お前が笑顔でいられる道を、じっくり探せばいい」



『私が笑顔でいられる道』



「……うん」

「全く、お前の性格は、直らないな」

「ごめんなさい」


誰かに決意を語るたび、一つずつ理解をしてもらうたび、

自分の考えがさらに固いものへ変わっていく。




もう、戻らない。




私はそう思いながら、懐かしい自分の部屋でじっと月を見た。





「うわぁ、動き出したのですね」

「はい」


『エアリアルリゾート』のペンション工事が、いよいよスタートした。

その写真がパソコンに届き、三村さんと確認をする。

幹人に別れを切り出してから5日、携帯に連絡を取るけれど、

これといった返信がなく、私はさらにメールを打つ。



『私の決意は変わりません。色々とご迷惑をかけますが、
よろしくお願いします』



式場のキャンセルもあるし、

結婚式に、出ようと思ってくれていた人たちにも挨拶しなければならない。

『DOデザイン』の人たちにも、頭を下げないと。

『明日あらためて会おう』と返信があったのは、その日の夕方だった。



納得してもわらなくては……

いつまでも、足踏みしているわけにはいかないのだから。



私はそう思いながら、携帯のメールを閉じた。




【12-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【萩尾香住】
一級建築士。年齢32歳。
幹人とは大学時代の同級生。仕事で再会し、知花の存在を知りながらつきあってきた。
幹人が選んだ女性を見てやろうと思い、『DOデザイン』へ仕事の依頼をする。

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