13 本音の言葉 【13-2】

【13-2】

だからといって、『退社』という現実を受け入れたのかと聞かれたら、

それは出来ていなくて……

私は今、どうしたらいいのかわからず、ここに立っている。


「すみません、大変申し訳ないのですが、
結婚の話と同様に、退社の話もなかったことにしていただけませんか」


誰もいない屋上。

だから、風だけが私の声を聞き、無視するように流れていく。

答えなど、もちろん戻ってくるはずもなく。


「元々、仕事を辞めたかったわけではなくて。
彼の事情でどうしても届けを出すしかなかったので……ううん……違うな」


これでは、幹人が悪いみたいに聞こえてしまう。

反論できない人のせいにするのは、卑怯だと思う。


「『エアリアルリゾート』の仕事や、萩尾さんの仕事をしていく中で、
もっと上を目指したくなったというか……」


……というか。

というかとは、どういう意味だろう。


「はぁ……和歌山に行こうかな」


同じように迷惑をかけるけれど、それでも……

『木』に関わっていることが出来るなら、そういう方法も……


バタンと音がして、屋上に三村さんが姿を見せた。

すぐに視線がぶつかったので、私は景色を見るふりをする。

ブツブツ言っていたの、聞こえていないとは思うけれど……


「屋上、暑いですけれど、クーラーばかりにあたっていると、
体が冷えてしまう気がして」

「あぁ、そうですね」


いつものように、そっけない返事。


「あ、そうです、三村さん、向こうの方に富士山が見えますよ、知ってますか?」

「知ってますよ」



話……終わってしまった。



どうしよう、続きがない。



特にやりたいことがあるわけではないので、私が先に下りてしまえばいいのだけれど、

三村さんの横を通り過ぎるとき、何か言われそうな、そんな予感がして動けない。


「一緒に、タバコでも吸いますか?」

「いえ、吸いません」

「そうですか」


三村さんは持ってきた灰皿代わりの缶を下に置き、いつものベンチに腰かけた。

ポケットからタバコを取り出し、1本口にくわえる。

よかった。これなら少し離れた位置を取りながら、扉に行くことが出来る。

逃げると思われるのも嫌なので、ハミングでもしながら……


「あれって、長峰さんの決断ですか?」


どういう意味なのかがわからず、私は立ち止まる。


「あれって……」

「結婚のことです。取りやめたのは、長峰さん自身の思いを表せたから……
ということですか?」


カチカチというライターの音。

三村さんがくわえたタバコに火がつき、吸い込む仕草と同時に、先に炎が見える。

左手の指に挟まれたタバコと、上に向かう煙。

さらに吐き出された煙が重なっていく。


「どちらですか?」


三村さんの目が、こっちを見た。

そうだった。三村さんを避けてはいけなかった。

今まで、色々と助けてもらったのに。逃げている場合ではない。


「はい、そうです。私が自分で選びました。
三村さんに言われた通りでした。何もかも我慢していたのに、
自分ではそれが正しいと、そう思い込みながら生きてきたので」


幹人に全て任せて生きていくことが、それが正しい道だと、そう信じてきた。

私の意見など、言う必要はないと、思い続けてきた。


「でも、それがとても無責任で、本当はズルイやり方だと、気付いたので。
決断もしない代わりに、責任も取らない。今までの私は全てそうでした。
デザインも一緒です。意見を強く押し出して、責任を負わされたら嫌だと、
結局、1歩下がったところでばかり……」


もっと、自分の思いを表せていたら、色々とけんかをして、

結局別れていたかもしれないけれど、幹人をあれだけ傷つけることもなかっただろうし、

私自身ももっと、傷つかなかった。

『優柔不断』さと、『八方美人』さが絡みに絡まった結果、一人空を見上げている。


「何か、得るものはありましたか?」

「得るもの……ですか?」

「はい。自分の心も、相手の心も傷つけてしまったけれど、
でも、何かつかんだものがあれば、それを支えに出来るでしょう。
相手……いや、黒田さんにも、きっとわかってもらえるときが来ると、
そう思うことが出来るじゃないですか」


『何かを得る』

私が、色々なものを犠牲にしてまで、得ようとしたもの。

それは……



あるけれど……



「何もないのですか?」

「いえ、あの……」


私が得たいもの、それはわかっているけれど……

でも、それを言い出すのは……あまりにも……


「ふっ……」


今、三村さんが笑ったように見えた。

笑ったというか、呆れているというか、そういう……

『どうしようもない人だ』という嘆きが、私の耳に届いた。




【13-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【長峰広也・真子・知己】
それぞれ、知花の父、母、弟。
口数は少ないが、知花をしっかり評価している父と、明るくて優しい母。
そして、社会人になっているのに、まだまだ親に甘えている2つ違いの弟。

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