13 本音の言葉 【13-4】

【13-4】

エレベーターは、待っていることを知っているのだろうか、

どこかの階に止まったまま、動こうとしない。


「あぁ、もう」


やっとのことで乗り込み、人の思いを弄んだ張本人に向かって、

一言文句を言ってやりたい。



『上に行って、三村に確認するように話したけれど……』



怒りに満ちあふれた私を乗せ、エレベーターは音をさせる。


「はぁ……」


数字がまた、一つ上の階を示した。

この階を過ぎれば、次は屋上。

真剣に見ていたはずなのに、口元はだんだん緩んでいく。



『何か、得るものはありましたか?』



そう、三村さんはきっと、わかっていたのだろう。

私が本当は、事務所に残りたくて仕方がない気持ちを、必死に押し込めていたことを。

気持ちを押し出すことは、勇気のいることだけれど、

自分で一歩を踏み出さなければ、そうしなければ、

本当の意味で『決別』にならないのだということを……



あれだけシラッと突きつけられると、腹も立つ……ところだけれど。



今日は……



完全に、私の負け。



「三村さん! 試作の写真、私にも見せてください!」



ベンチに座っていた三村さんは、送られてきた資料を、こちらに向かって振ってくれた。





「長峰知花は、新人ってことでしょ」

「新人ではありません」

「いや、でも、『もう一度採用してくれ』と叫んだって」

「叫びましたけれど、結局は退職してないのですから、再採用ではないのです」

「ほぉ……」


その日の午後から、早速、『エアリアルリゾート』の設置家具について、

持ち込まれた訂正部分と格闘する。


「意外に圧迫感がありますね」

「ですね」


三村さんがアイデアを出してくれて、私がそれを実現するにはどう考えたらいいのか、

精一杯思いつくことを話し、形付けていく。


「うーん……」

「無理にこだわらなくても、これはどうですか?」


『木』には組み合わせの相性がある。色が近くても、育った場所が違えば、

それだけ置かれていた状況も変わるため、特性も変わる。

相性のいいもの同士を組み合わせていった方が、結果的にいい効果を生み出すのは、

それが『自然』に近いということだろう。


「……で……って、何かついていますか?」


私に向いている三村さんの視線を感じ、顔を上げた。

三村さんは口元をゆるめて、首を横に振る。


「俺、今からもう一度デザインの学校に通おうかと、真剣に考えていたんですよ」

「学校に? 三村さんが……ですか?」

「はい。外国での交渉ごとって、その場の雰囲気だとか流れで、
結構突き進めることが多かったんですけど、
日本人はしっかりとした理論を必ず求めてきます。
それは国民性なのでしょうけれど、基礎中の基礎ってものを勉強していないので、
そこをつかれてしまうと、言い返せなくなるときがあって……」


三村さんはたしか、『経済学部』を出たと、そう聞いている。

自分でデザインの学校にも通ったらしいが、それでも基礎がないと感じるのだろうか。

私にしてみたら、才能があふれていて、うらやましい限りなのに。


「でも、考えを変えました。長峰さんが残ってくれるのなら、俺、それでいいです。
こうしてあなたに問いかけたら、必ず答えを返してくれる」


『私が返す答え』

三村さんの役に立っているのだろうか。


「必ず返せているかどうか、わからないですけど」

「いえ、意見が正反対で、言いたいことを言えるのも、
それでもどこか同じようなことを求めているから、悩んだ時に問い返せるのも、
俺にとってはとても心地よいです」


確かに、三村さんが入社してきてから、常にぶつかってばかりいた。

才能に嫉妬したり、強い言葉に傷ついたり、それでも、それを引きずらずに、

前へ進めたのは、不思議なくらい当たり前の気がした。


正反対だけれど、その根底にあるものは、どこか同じで……

三村さんの意見を認めていくと、自分の意見も輝けるような、そんな気がした。



『Dressing』



『水と油』で出来た、あのドレッシングだけれど、

そこから別のハーモニーが生まれてくるような……





そんな毎日が、以前よりももっと楽しいのだと気付くまで、

そうかからなかった。




【13-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【長峰広也・真子・知己】
それぞれ、知花の父、母、弟。
口数は少ないが、知花をしっかり評価している父と、明るくて優しい母。
そして、社会人になっているのに、まだまだ親に甘えている2つ違いの弟。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント