13 本音の言葉 【13-6】

【13-6】

『アイスモカ』のクリーム部分を、ストローでクルクルとかき混ぜると、

白と茶色が違和感のないくらいに合わさっていく。


「三村さんから、あなたが仕事を辞めなくなったと聞いて、驚いたわ。
8月の終わりに、幹人から電話があって、お前の責任だと怒鳴られたけれど、
まぁ、それは彼のことだしと思って流していたの。また、あなたとケンカしたとか、
そういうことだろうと思って」


いずれ、萩尾さんにもわかることだ。

今更、隠したりする必要もない。


「本当に、結婚やめてしまったの?」

「はい」

「それは私が出てきたから?」


萩尾さんの存在。

知らなかったとしたら……


「関係ないとは言いませんが、それだけが理由ではありません。
むしろ、萩尾さんのおかげで、わかったことがたくさんありましたから」


そう、それは強がりでもなんでもない。

萩尾さんが出てこなければ、幹人との関係性に疑問を持つことなどなかっただろう。

言われるままに仕事をやめ、もやもやした思いを抱きながらも、

彼と『カナダ』へ行ったはず。


「それなら、謝罪はしないけれど」

「結構です」

「……でも、彼には話したわ」



『彼』



「彼……って」

「三村さんにということよ。あなたが仕事に残ることが決まったから、
希望があるのなら、仕事を引き継がずに済ませようかと提案されて。
おそらくそれは嫌がるだろうと、私が事情を説明した」


萩尾さんは、私という存在を知りながら、幹人と付き合いを続けていたこと、

最初は『長峰知花』という女を見定めるために、事務所へ向かったこと、

それを隠さずに告げたという。


「もっと驚くかと思ったけれど、冷静に聞いていたわ。
まぁ、最初にも鋭く言われたものね、何を評価したのかって」

「……はい」

「幹人と私の間柄まではわからなかっただろうけれど、あなたと私に何かがある……
それくらいは感じていたような気がするわ、彼」


仕事を引き受けたくなかった私の前で、

自分が引き継ぐと宣言してくれた。

あの時は迷惑だと思ったけれど、結果的に、私は自分の思いに気付き、

こうしてここに残っている。


「プライベートなことを、あれこれ語るのは好きではないから、
黙っていようかとも思ったの。でも、私には、あなたのデザインが変わったのは、
彼の力があったから、そう思えてならなかった」



『あいつに尻尾でも振ったのか……』



幹人には、三村さんとのことを勘違いされたままになってしまった。


「萩尾さんがどう思われても構いませんが、
三村さんにこれ以上、あれこれ言うのは辞めてください」

「……あれこれ? どうして」

「三村さんは、同僚として私のことをフォローしてくれていただけです。
萩尾さんから、私が三村さんの影響を受けたという話を聞いた幹人も、
結局は、勘違いしたままになってしまいました。事実ならともかく、
そうではないのだから、ご迷惑をかけるだけです」


三村さんには三村さんの生活がある。

もしかしたら、お付き合いをしている人だっているかもしれない。


「事実があとからついてくることだって……世の中にはあるものよ」


私は、その言葉に返事をしないまま、アイスモカをストローで吸い込んだ。



『あなたのデザインががらりと変わったのは、彼の力があったから』



萩尾さんと別れてから、事務所への道を歩く間、

私の頭の中から、この言葉が離れていくことがなかった。

個人的な感情はないのだと宣言したものの、あの時、デザインをやり遂げられたのは、

三村さんの力が大きかったことくらい、私自身十分気付いている。

自分の思いを堂々と表現できて、才能もある人で、

うらやましく思う気持ちは確かにあって……


迷うとき、気がつけばそばにいてくれるような、

そんな気がするのは……





ただの『安心感』なのだろうか。





「ただいま戻りました」

「おぉ、長峰」


社長の前に、一人の女性が座っていた。

仕事の依頼に来たと言うより、知り合いが世間話をしているように見えてしまう。


「千葉さん、『エアリアルリゾート』の担当者になる、うちの長峰です」

「あ……はい」


『千葉汀(なぎさ)』。差し出された名刺には、そう名前が書いてあった。


『ブランチライン』の千葉です」

「『ブランチライン』」


『ブランチライン』というのは、インテリア業界の専門業界雑誌で、

歴史的には、『アトリエール』よりも新しい雑誌になる。

しかし、元は海外の情報誌だったため、流行の先端という点では、

『ブランチライン』の方が評価が高い。


「今、色々と企画を追いかけていまして、大手のメーカーに飛び込んでも、
私みたいなよそ者には、何一つ話してもらえません」

「『ブランチライン』はよそ者と言わないでしょう」


社長がそう尋ねると、千葉さんはそれは違いますと首を振る。


「『ブランチライン』の取材許可はもらっていますけれど、
私は正式な編集者ではないんです。記事を書けなければ、来年からの契約はなしです」


千葉さんは自分の首に手を当てると、切るという仕草をした。

社長は、なかなかシビアだねと、納得する。


「それで……あの……」

「あぁ、はい。『DOデザイン』さんが、
『エアリアルリゾート』の仕事を獲得したと聞きまして、
少し様子を見させていただきたいなと」

「様子……ですか」

「はい。どんなふうにプランが形になっていくのか、
完成まで、なかなか取材させてくれる会社が少ないんですよ」


千葉さんは、自分は企画を持ち込む立場なので、

絶対に記事になるとは言い切れないけれど、

『エアリアルリゾート』の新しい取り組みは、業界的にも注目されているのだと、

もっともらしく語ってくれる。


「千葉さん」

「はい」

「うちはあくまでも仕事の依頼を受けている立場ですからね。
『エアリアルリゾート』側の許可を取っていただけますか。
その上で細かいお話を伺いましょう」

「本当ですか?」

「はい」


千葉さんは嬉しそうに何度も頭を下げ、絶対に頑張りますと笑顔を見せた。




【14-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【長峰広也・真子・知己】
それぞれ、知花の父、母、弟。
口数は少ないが、知花をしっかり評価している父と、明るくて優しい母。
そして、社会人になっているのに、まだまだ親に甘えている2つ違いの弟。

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