14 応える意味 【14-3】

【14-3】

飛び込みで、取材申し込みをしてきた千葉さんから連絡が入ったのは、

2週間後のことだった。


「『エアリアルリゾート』がOKを出したのですか」

「あぁ、そうらしい。驚いたよ。どういう売込みをしたのかは知らないけれど、
まぁ、向こうがOKを出した以上、こちらとしては従うしかないな」

「はぁ……」


デザインをどう作り出していったのかを話し、

さらに、仕事が完成していく過程を取材される経験は、今まで一度もない。

退社を取りやめた私も、なるべく関わるようにとは思っているけれど、

三村さんから逆に引き継いだ『NORITA』との交渉が長引き、

予定通りには行かなくなる。


「すみません、明日」

「いえ、仕方がないですよ。
もとはと言えば、俺の仕事だったのを長峰さんが引き継いでくれているわけですし」


明日、建築中のペンションへ向かい、実際に家具を入れるための打ち合わせがあり、

三村さんは朝早くから現場へ行くことが決まっている。

自然の中に立つ建物の姿も見てみたいし、そこに収まっていく家具たちのバランスも、

自分の目で確かめてみたい。



行きたかった……



「ん?」


落ち込む私の横で、三村さんはなんだか嬉しそうに笑っている。

手には千葉さんがよこしている名刺。

一緒に行けることが楽しみなのだろうか。


「楽しそうですね、三村さん」

「そう見えます?」


千葉さんとどこかで待ち合わせでもして、乗せていくつもりなのかもしれない。


「渋滞するかもしれないですから、早く出た方がいいですよ。
遅れてしまうと向こうに失礼ですし」

「はい、わかってますよ」


『わかっている』

そうあっさり言われてしまうと、言い返すことがばかばかしく思えてきた。


「……なら、いいです」



……ただ、うらやましい。



「……ったく、長峰さんは本当に子供みたいだ」

「私?」

「そうですよ。だからおかしくて笑っているんです」

「私のどこがおかしいですか」

「『行きたい』、『見たい』、『触れたい』って顔に書いてありますから」



……ウソ



「そんなこと書いていないと思います」

「いや、ありますよ。心全部がそっちに持っていかれているから、ほら、
デザインの線、同じところに引いてますよ」

「ん?」


いけない。『NORITA』からの修正。

私は慌てて、マウスを右に引っ張っていく。



「俺も、長峰さんと行きたかったですけどね」



「あ……」


引っ張った指が、今の言葉で離れてしまった。

せっかく描いた線が、一瞬で消えてしまう。

ここまでで1時間以上、かけたのに……


「あの千葉さんって人、どうも苦手なタイプなんですよ。
結構積極的で、ガンガン前に出そうでしょ」


ダメだ、もう一度やり直さないと。


「苦手? 三村さんにそんなタイプがあるんですか?」

「ありますよ。心の奥底には、昔の俺の名残が陣取ってますからね。
あの人、少しでもそんな素振りを見せたら、そこをえぐり取りそうでしょ」


三村さんは左手で、何かをすくい取るような仕草を見せた。

確かに、フリーで記者をしているだけあって、前に出ようとする人だ。


「写真は色々と撮らせてもらうつもりです。後から報告しますからね」

「あ……はい」


報告か……。写真を見たらきっと、もっと本物が見たくなってしまう気がする。

寸法も配置も、素材にだって色々とこだわった。

平面から立体になり、いよいよ香りや音もわかるようになるのに……


いつか、完成品を見ることは出来るだろうが、

作り上げていく過程は、今でなければ味わえない。


「長峰さんがこだわった箇所も、ちゃんとチェックしてきます」


三村さんがきちんとしてくれるのはわかっているけれど……

でも……


「三村さん」

「はい」

「私……」


仕事をやりかけていると、また失敗してしまう。

マウスから手を離して、しっかりと横を向かないと。



「私、週末に自分で見に行きます」



建設はまだ続くだろう。

週末、休みの日を使って、レンタカーを借りて運転すれば……


「写真もいいと思います。でも、デザインを担当したものとして、
自分の目で確かめたいです。納得することが出来たら、
また一歩前に進める気がするので」


そう、私はいつまでも引っ込んでばかりはいない。

せっかくここに残ることを選んだのだから。

ウジウジとしたまま、時間を流したりしない。

あの時、納得はしてくれなかったかもしれないけれど、

きっといつか、幹人にもわかってもらえるはず。


「週末ですか」

「はい」

「それなら俺、運転しましょうか」

「いいのですか?」


三村さんはしっかりと頷き、こちらを見た。

おいていかれることが不満だったはずなのに、心が急に軽くなる。

週末、三村さんと二人。


「言いましたよね、俺。……応えますって」


私の思いに応えてくれる約束。

感謝の思いを込めて頷くと、目の前に小菅さんの顔があった。


「お取り込み中、いいでしょうか」


小菅さんの目は、見えない何かを捕らえようとしているのか、

左右にゆっくりと動いてから止まった。




【14-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
日本にある『木』の中で、一番軽いものは『桐』。
世界的に見ても軽い部類に入っているが、寸法のずれなどは少ないため、
タンスの材料として好まれている。

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