14 応える意味 【14-5】

【14-5】

お披露目用に、先行して出来ていく部屋。

この壁一面に、私たちがデザインした家具が、収まっていくことになる。


「あぁ……そうか」


『シンメトリー』がわかるように、正面からシャッターを切ってくれたのだろう。

画像自体は小さいけれど、描きたかった世界観は感じられる。


「何、『エアリアルリゾート』の?」

「はい。現場で撮ってくれたみたいです」

「ほら、やっぱり三村さんからのメールを待っていたわけでしょう、ズバリ!」

「優葉ちゃん、違うって」

「どれどれ、見せてよ、知花ちゃん」

「はい」


小菅さんに携帯を渡し、私は、外から入り込む光の加減で、

見せてくれる色が違うみたいだと言いながら、『ドリア』をスプーンですくってみる。


「そうね、いいじゃない。ここに家具が入るわけでしょ。
うん、うん、話題になるわよ、これ」

「そうだといいのですが」

「そうですよ、そうだといいですね、『DOデザイン』の若手コンビ。
これで仕事がどんどん増えちゃうかも。私の給料も、上がっちゃうかな?」

「あはは……いいわね、それ」


小菅さんから携帯を戻してもらい、私はあらためて写真を見た。

週末には、三村さんがこの場所へ連れて行ってくれる。

そう思うと、行けなかったという悔しさよりも、期待の方が数倍も働き、

子供のように心がウキウキした。





その日の仕事を終えて、駅近くにあるスーパーに入った。

買い物カゴを取り、いつものように野菜の場所から売り場を見ていく。

以前なら、野菜も大袋で買って冷蔵庫に入れていたが、幹人と別れてから、

一人で食事をすることが増えているため、使いきれないことも増えた。

キャベツは半分、トマトも一つだけカゴに入れる。

売り場の角を曲がると、幹人の好きだった『シーザードレッシング』の安売りがあった。




冷蔵庫に、必ず入れていたもの。




別に、商品を避けることはないのに、あれから手を伸ばすことが出来なくて……




その日も私は、結局手を伸ばせなかった。





「うぅ、寒い」


次の日の朝は、吐く息が白く見えるほど、気温が低かった。

電車の中でつり革を掴み、駅に降りると階段を上がる。

少し前にいた人が三村さんだとわかり、声をかけようとしたが、

隣に女性がいることに気付き、上げた手はそのまま下ろす。

隣にいるのは、千葉さんだった。


「おはようございます。朝からお邪魔して申し訳ありません」


千葉さんは、写真を大きく引き伸ばしたものを持ち、

事務所で社長や伊吹さんに披露する。


「おぉ、いいねぇ」

「そうなんですよ、現場でも評判になっていました。
形になるとまたイメージが膨らみますし、正式に家具が入れば、さらに……」

「千葉さん、これ1枚譲ってもらってもいいかな」

「あ、いいですよ」

「ありがとう。うちの若手が手がけたって、営業に使えるからね」

「あぁ、そうですね」


千葉さんは、フリーライターとして、人の中にもまれている人だからだろうか、

物怖じしないし、誰とでも平気で話せる。


「それなら、三村さんや長峰さんの写真、社内で撮ってもOKですよね」

「ん? まぁ、そうだね。デザイン画は入り込まないように気をつけて。
全てが『エアリアルリゾート』の仕事ではないからね」

「ありがとうございます」


普通なら言いにくいことが、躊躇なく言えるのも、性格なのだろうか。

デザインを出がける社内を撮影することって、結構、ハードル高そうな気がするけれど。


「俺、写真嫌ですから」


三村さんは、そういうとタバコを手に取り、事務所を出て行こうとする。

千葉さんは、両手を腰にあてため息をつく。


「三村さんって、本当に頑固ですね。土居社長」

「ん?」

「三村さん、昨日もずっとこの調子です。
写真撮らせてくださいって言ったら、手とか足とかならいいけれど、
顔は絶対に嫌だって」

「どうしたんだよ、三村。お前まさか子供みたいにさ、
写真で魂抜かれるとか思っているわけではないよな」


伊吹さんのからかいにも、軽く手を振り三村さんは絶対に嫌ですと譲らない。


「誰がどう思おうがいいですけれど、千葉さん、約束ですからね。
あなたは確かに『エアリアルリゾート』からOKをもらっているけれど、
それは俺たちが手がけたデザインについてでしょ。顔写真に関しては、
権利が別です」

「……権利……ですか」

「はい。俺の写真載せるようなことをしたら、今後、一切取材には協力しません。
絶対に守ってください」

「あぁ、もう、はい……約束しましたよね。破りませんから……もう!」


千葉さんは、三村さんが完全に事務所を出て行ったことを確認し、

私の隣にやってきた。三村さんの椅子を引き、そこに座ると、

ブラシを手に持ち、机の上にある消しゴムかすを下に落とす。

そして、羽の部分に息を軽く吹きかけた。


「長峰さんは理由をご存知ですか?」

「理由?」

「はい。三村さんがどうして写真を嫌がるのか……です」

「さぁ、わからないですけれど」

「普通なら、こんな大きな仕事に関わったのですよ。
キャリアになるから、自慢したいでしょうに。そう思いません?」


自慢したいかどうかはわからないけれど、大手の仕事を勝ち取ったのだ、

自分にプラスになると思うのは、当然だろう。

私は、ふと、以前聞いた話を思い出した。




【14-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
日本にある『木』の中で、一番軽いものは『桐』。
世界的に見ても軽い部類に入っているが、寸法のずれなどは少ないため、
タンスの材料として好まれている。

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