14 応える意味 【14-6】

【14-6】

三村さんは、家族の反対を押し切って、今の仕事を続けている。

どんな商売をしているかは知らないけれど、どこかで写真でも見れば、

家族が嫌な思いをするとでも考えているのだろうか。


「人には、色々と事情もあるのだと思います。
千葉さんも、三村さんを取材したいのなら、約束は守った方がいいですよ」

「そうですね、三村さん、冗談にならないくらい頑固そうだし」

「あぁ……はい、それは絶対にそうです」


三村さんは、頑固な人だと思う。

でも、決して、頭ごなしではないし、押し付けでもない。


「だから、写真は長峰さんを中心に……」

「エ……いや、私も嫌です。顔は結構です」


同じ業界にいるのだから、幹人が見ることもあるかもしれない。

彼が新しい幸せに動き出すまで、私はあまり……



刺激したくない。



「エーッ! 長峰さんも撮影拒否ですか? 
なんだか、『DOデザイン』のお二人は、変わってますね」


千葉さんはつまらないなと言いながら、

三村さんの使うペンを、指でクルクルと回しだした。





その日の午後は、『NORITA』に初めて一人で向かった。

置いてもらっている商品の様子を見に行くことと、新しい商品の紹介。

さらに、『NORITA』が新店舗をオープンするという情報もあったため、

顔を見せておく必要があった。

いつもは小菅さんの後ろで、フォローすることばかりだったけれど、

今日は私がしっかりしないと、来年から商品を置けなくなるかもしれない。


「こんにちは」

「あ、こんにちは。部長ですよね」

「はい。お忙しいところすみません。一応、お時間もお願いしてありますが」

「はい……」


売り場に立っていた女性は、急に『林田家具』が入ってきたので、

少しだけ待ってもらえないかと、そう言ってきた。


「『林田家具』さんですか」

「はい。『ウッドライフ』の追加注文をしたのですが、在庫が揃わないらしくて。
どこでしたっけ、大きな水害が発生しましたよね。
それで、材料の調達が間に合わないそうです」


デザインの賞を取った女性が手がけた『ウッドライフ』。

安い材料を使って、大量生産が出来るだけに、発売当初から話題になっていた。

幹人も営業に関わっているのだろうか。


仕方なく売り場を歩いていると、6人がけのダイニングテーブルが見えた。

売り場の一番いい位置には、『林田家具』の製品が置いてある。

デザインも色も大衆が好むものを選び、圧倒的な生産力で、業界を仕切っている会社。


「申し訳ありませんでした。飛び込みに近い形で」

「いえいえ、直接『林田家具』さんに来ていただけるとは思いませんでした。
これだけの売り場ですからね、扱える商品にも限りがありまして」

「ですよね、それはそうだと思います」



……幹人



階段の下から聞こえる声は、幹人の声。

私は、影に隠れながら、その声を持つ人の顔を見る。


「これからは、極端にいいものか、安くて買い得感のあるものか、
どちらかになるでしょう。うちなら、両方にお答えすることが可能です」

「はい……」

「ある程度の商品整理をしていただいて、
ぜひ、我が社との結びつきを強くしていただきたいですね」



商品整理



「ありがとうございました」

「それでは、また納品の時に」

「はい」


幹人が『NORITA』の担当になったことなど、今まで一度も聞いたことがない。

元々、『NORITA』は、オリジナルな商品を並べる会社だ。

あとは、現場と手を組み、備え付けの家具などに力を注いでいる。

『林田家具』は自社工場も店舗も持っているため、

それなりに売り場は確保できているはずなのに。


「『DOデザイン』さん、どうもすみません」

「いえ……」


私は部長に挨拶をして、階段を転ばないように下りた。





「申し訳ないですね。時間を守っていただいたのに」

「いえ、色々とありますから、大丈夫ですよ」

「いやぁ……『林田家具』さんの『ウッドライフ』。
問い合わせがうちにもありまして、で、取り扱いが出来るのかと確認したら、
営業の方がすぐに来ることになってしまって」

「そうですか」


幹人と私の関係など、『NORITA』には何も関係がない。

むしろ、知られていないほうがいいはず。


「聞きましたよ。『エアリアルリゾート』のトータルデザインに、
参加されているそうですね」

「あぁ、はい。今回は幸運なことに、選んでいただきました」

「いやいや、三村さんと長峰さんが担当されていると聞いて、
あの三村さんならやるだろうねと、店のみんなとも話していたんですよ」


部長は、自らお茶を入れ、私の前に置いてくれた。

気持ちが落ち着く緑茶の匂い。


「彼、『スペイン』にもいたことがあるらしいですね」

「あ……色々と行っていたってことは、少し聞きましたけれど、詳しくは」

「これです」


部長は、小さなパンフレットを取り出し、

今、ヨーロッパで流行し始めている家具のメーカーなのだと教えてくれた。


「住宅事情が違うので、今まではあまり取り入れなかったんですけど、
配色もほら、結構おもしろいでしょ」

「そうですね」


なんだか突拍子もないような派手な感じだけど、

洋風な家で、フローリングなら、合いそうな気がしてしまう。

同じ白い壁でも、置く家具の形や色で、見せる風景は変わるものだ。


「『SUAVE(スアベ)』というメーカー名も、彼は知っていてね」

「『SUAVE』」


三村さんに、萩尾さんとの仕事を引き受けてもらったこともあり、

『NORITA』の担当を外れてもらったけれど、なんだか申し訳なくなってきた。

部長は、きっと、三村さんとあれこれ話がしたいだろう。


「すみません、部長」

「どうしました」

「私が担当になってしまって。三村さん、来ないから」

「何を言っているんですか、長峰さん。大丈夫ですよ……」


部長は手を振りながら、問題ないですと繰り返してくれたが、

私は、お茶を飲みながら、どこか複雑な気分だった。




【15-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
日本にある『木』の中で、一番軽いものは『桐』。
世界的に見ても軽い部類に入っているが、寸法のずれなどは少ないため、
タンスの材料として好まれている。

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