15 広がる思い 【15-3】

【15-3】

「『エアリアルリゾート』のことを知って、わざわざうちに話を持ってきたわけで」

「そうですけれど、ホテルとお店とは違います」

「……今、相手の思いって言ったじゃないですか」

「えっと……」


あぁ言ったら、こう返す。

ここまで互角だったのに、今の一言に私は一瞬、言葉を詰まらせる。

三村さんは、言い返せたと涼しい顔をしているけれど、

全く、人のことを園児だなんて言っておいて、子供みたいなのはあなたの方です。


……と思い切り言い返せたらスッキリするけれど。





「聖子さん、お冷、おかわり」

「はいはい」


互いに言い合いをしていたら、いつもの昼食タイム。

テーブルの前には、小菅さんと優葉ちゃん。


「何? 何ですか、二人とも」

「いやいや、相変わらず激しく言い合うなと思って」

「激しかったですか?」

「すごかったですよね。電話の音も聞こえないくらいに」

「エ……ウソ」


優葉ちゃんは、耳を塞ぎながら電話に出たのだと、

先に届いたサンドイッチをほおばった。

そんなに大きな声で言い合っただろうか、あまり記憶がない。


「記憶がない?」

「記憶がないというより、全体像しか覚えていなくて」

「はぁ……」


『DOデザイン』に残ると決めてから、初めての仕事になるからかもしれない。

なんだろう、周りの迷惑など関係なく、私自身はすっきりしている。


「『ドレッシング』だもんね、知花ちゃんと三村君は。
強く振れば振るほど、味が混ざり合うのよ」


私と三村さんを『水と油』だと表現した二人に、

聖子さんは、いつもこんなふうに付け足してくれる。


「そうか、ケンカするほどって言うもんね」

「夫婦喧嘩は犬もとも言いますしね」

「ケンカではないですし、夫婦でもありません」


私は頼んだドリアが届いたので、息を吹きかけながら、やけどしないように口に入れた。





「そうですか」

「悪いね、長峰さん」

「いえ、それは仕方がありませんから」


デザインの方では、自分の思いを少しずつ出せるようになったのだけれど、

営業の方が、なかなか前に進まず、困っている。

お世話になっていた『NORITA』からも、新作を置くことは出来ないと、

そう言われてしまった。


「春は見送らせてよ。また秋頃」


理由はわかっている。問い合わせが多いという理由で、

『林田家具』が手がけるシリーズを展開し始めたからだ。

絶対的な販売ルートを持つ会社に乗り込まれると、うちのような零細企業は、

あっという間に弾かれてしまう。

注文が来るのを待つだけでは、売り上げとして伸びていかないのだけれど。

こればかりは、無理に押すことも出来ない。

売り場は限られているし、予算だってあるだろう。

『NORITA』を出ると、携帯が鳴り出した。

相手を見ると、小菅さんになっている。


「はい、もしもし」

『あ、知花ちゃん。ねぇ、今どこ?』

「今ですか? 『NORITA』で……」

『すぐ、今すぐに戻ってきて!』

「は?」


何を慌てているのだろうか。

小菅さんがあんなに慌てている様子など、今までなかった。

電話はそこで切れてしまったので、私は早足で駅まで向かうと、

ホームに入っていた電車に飛び乗った。



どんなに急いでみても、電車の速度を変えることは出来なくて、

会社に戻ったのは、それから40分後のことだった。

さぞかし大騒ぎになっているのかと思えば、

扉を開けたが、いつものとおりの静かな事務所でしかない。


「ただいま、戻りました」

「あ……知花ちゃん」


いつもの事務所と思っていたのに、唯一違っていたのは、

優葉ちゃんがちりとりとほうきを持って、床に散らばった紙くずを拾っていること。

私はその1枚を拾い、広げてみる。


「これ……」

「それ、『RB』っていう雑誌なの」


紙に書いてある文字は、どこの文字だろう。

英語でもなさそうだけれど。


「日本の物ではないですね」

「うん、イタリアで出しているものらしい」

「イタリアの雑誌? それがどうしたのですか」


小菅さんが優葉ちゃんの方を見ると、優葉ちゃんは自分は嫌だと顔を振り始める。

やはり、何か問題があったのだろう。


「何があったのですか」

「うん、あのね。あの人が来たの。ほら、三村君と知花ちゃんを取材している千葉さん」

「千葉さん。あぁ……もう、記事も出来る頃ですよね」

「それが……ねぇ」

「はい」


千葉さんは、入稿してきたという原稿の報告を兼ねて、事務所に顔を出した。

その時に持っていたのが、この雑誌だという。


「あのね、写真はNGだったけれど、
千葉さん、二人のプロフィールらしきものを書いたみたいなのよ。そこで……」


小菅さんの説明に、優葉ちゃんは、破られた1枚の紙を見せてくれる。


「ここです」

「ん?」


見せられた文章の中に、私が初めて知る事実があった。




【15-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【千葉汀】
フリーライターの女性。
『ブランチライン』という雑誌の取材で、『DOデザイン』にやってくる。
色々な話題の情報をつかむことが上手く、それを記事にしようと動く。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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