15 広がる思い 【15-5】

【15-5】

自分だって、相当おせっかいだったはず。

『ほっといてほしい』というセリフを、数回口にした気がする。


「じゃぁ、長峰さんにとっては、俺も相当迷惑なヤツってことですよね。
今更ですけれど、すみません」


三村さんはそういうと、またタバコを吸い込んで、そして吐き出した。

煙も機嫌が悪そうに、不規則な動きを見せる。


「ご家族と、会って話をしようとは思わないのですか?」


面倒だと思うところもあるけれど、それでも最後は家族しかいない。

今回、幹人のことがあって、父と母の思いに、私は本当に救われた。


「思いませんね。今までも何もわからなかったのだから、
今更わかることもないでしょう。俺は、デザインがやりたいだけで、
賞が欲しかったわけでもないし、名前を世に出したいわけでもないんです。
自分が思うものを、作りたい……それだけです」

「でも、イタリアで賞をもらったと」

「それは、誰も俺を知らないからしたことです。
ただの日本人としか見ていないから、だからこそ、作品を評価してもらえると、
そう思ったからです。賞金も出ませんし、どこか大きなテレビ局にでも出入りして、
インタビューを受けるわけでもありません」


三村さんはタバコをもみ消し、いつもの缶に押し込んだ。


「ただ……この時間が続いて欲しいと、そう思っているだけなので」


『この時間』

それはどういう意味だろう。


「俺はただ、これからもずっと、デザインに関わっていけたら、それでいいんです」


名誉も地位も関係なく、素材と向き合って作品を作り上げる。

三村さんとはレベルが全く違うところにあるだろうけれど、私も本当にそう思う。

ライトが当たるのは、作品だけで十分だ。


「あの……」

「はい」

「あ……いいです、なんでもないです」


触れられたくない部分だということは、よくわかった。

また、その傷をえぐりそうなことを口に出しそうで……


「止めなくていいですよ、言いたいことを言ってください」

「いえ……」


いえ……ずうずうしいことですから。


「じゃぁ、いいんですね」

「はい。私、下に戻ります」


そう、この展開では仕方がない。

私は、そう自分に言い聞かせながら、太陽の沈む方向を見た。

賞をもらったことなど、三村さんにとっては、

思い出したくないことなのかもしれない。


「先に、戻ります」

「はい」


私は数歩進み、別の場所から外を見た。

電信柱に並んだ鳥たちが、夕焼けがなくなる前に巣に戻ろうと、

一斉に羽ばたき始める。


「うわぁ……すごい」


いつもなら通り過ぎるような光景だけれど、そこで足を止めてしまった。

確かにすごいけれど、だからといって、長い時間見ていられるものでもない。

三村さんは、新しいタバコを出すことなく、ベンチに座ったままだ。

話は終わったのだし、先に戻ると言ったのだから、戻らなくちゃ。


「長峰さん」

「はい」

「『見たい』、『触れたい』じゃないんですか?」

「エ?」


十分声は届いていた。何を言ったのかもわかっている。

それなのに、抑えていたはずの私の気持ちはすぐに反応し、

もう一度言ってもらおうと、勝手に三村さんの前まで戻っていく。


「何か、言いましたか」


三村さんは呆れ顔をした後、笑い出した。

どうして笑われるのかわからないけれど、

三村さんの表情はずいぶん柔らかくなっている。


「あの……」

「三村さんが作ったもの見てみたいし、触れてみたいのだけれど、
そんなことを言ってはいけないのではないか……ってことでしょ」


完全に、気持ちは読まれていた。


「はい……」


私の脳は、あまりにも単純に返事をしてしまう。


「見せてあげたいんですけどね、持ち出せるようなものではないんですよ」


三村さんが賞を取った作品は、棚が上下する本棚だという。

壁と天井に支えを作るため、家から出すのは難しい。


「本棚ですか」

「そうなんです。組み立て式で、天井に押さえつける構造なので、
見てもらうには、全て分解して、事務所で作り直すか、
俺の部屋に来てもらうしかないもので……。すみません」


三村さんは、そういうと一度大きく背伸びをして、タバコ用の缶を手に取った。

仕事も切羽詰っているものはないから、早めに帰ろうかなと歩き出す。


「そうですか」

「はい」


三村さんの部屋。

小さなものなら、事務所に持ってきてもらってでも、見てみたいと思ったのに、

部屋までとなると、そこはハードルが高い。


「明日も晴れますかね。萩尾さんの現場に行くつもりなんですが」

「晴れると……思います」


天井まで届く、移動式の本棚。

配色はどういうものなのだろう。素材はある程度の強度も必要だろうけれど、

あまり重いものでは動かしにくい。

長さ、それに幅。ラインはどう揃えたのだろう。


「明日は、猛吹雪だそうですよ」

「あぁ、そうですか」


組み立て式だと言っていたから、それほど高額な素材にはしなかったはず。

パイン材とか……


「長峰さん、キスしてもいいですか」

「あ……はい」


ずうずうしいのはわかっているけれど、でも、気になるのだから、この際……


「エ……」


三村さんに腕を引っ張られて、私の背中は、入り口横の壁に押し付けられた。




【15-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【千葉汀】
フリーライターの女性。
『ブランチライン』という雑誌の取材で、『DOデザイン』にやってくる。
色々な話題の情報をつかむことが上手く、それを記事にしようと動く。

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