15 広がる思い 【15-6】

【15-6】

何が起きているのだろうか。

三村さんがどうしてこんなことをするのかわからない。

両腕、ガッチリ固めてしまうなんて。


「あ……あの……」

「俺、言いましたよ、キスしてもいいかって。『はい』って答えましたよね」

「は? なん……ちょっと待ってください。私」


そんなことを聞いた覚えがない。

それに、もし、100歩譲って言ったとしても、キスしていいかなんて聞かれて、

了解なんてするわけがない。


「言いません、言いませんから。ちょっと……あの……」

「全く、あなたって人は」


三村さんはそういうと、私の両腕を解放した。

私は壁から背中を離す。


「明日は吹雪になるとウソを言っても、そうですねと返事をするから、
だからキスしていいですかって、あまりにもわかりやすい問いをぶつけました。
そうしたら『はい』と」

「ウソです」

「ウソじゃないです。言いたいことも言わずに、ごまかそうとするから、
頭がついていっていないんですよ」

「ごまかすって……」

「俺の作品を見たいのでしょ。部屋まで押しかけてもいいですかと、
聞きたいわけでしょ。言えばいいじゃないですか」


そう、言えばいいのだけれど。


「もう一度言いますよ。俺、あなたの問いには、きちんと応えます。
長峰さんにはウソはつきません。だから、あなたも気持ちを前に出してください」


気持ちを前に出す。

私はその通りだと頷いた。あれこれ悩んで口にしないのではなくて、

口にしてみて考える。こういうことだって必要だ。


「ごめんなさい。その通りです。作品、見せていただけますか」


『イタリア』まで行くというのなら、諦めるしかないが、

同じ都内に住んでいる三村さんの部屋に行けば、作品を見ることが出来るのだから。

どうしても、見てみたい。


「わかりました。その代わり、部屋は汚いですよ。覚悟してくださいね」


私は、やはり子供のような大人なのかもしれない。

三村さんの問いかけに、すぐコクンと頷き、当たり前のように受け入れる。


「それなら、どうぞ」

「はい」


見ることが出来ることになったのなら、一秒でも早く行動したい。

私はエレベーターのボタンを押しに向かう。


「長峰さん、キスしてもいいですか?」

「……ダメに決まっているじゃないですか」


私は、ふざけて言った三村さんの顔に向かって、しっかりとそう言った。

三村さんは、それはそうですよねと、笑顔を見せてくれる。

三村さんの顔は、今日一番優しい表情に変わっていた。





「火の元、電気OKです」

「はい」


結局、事務所を出るのは最後になっていたので、二人で戸締りをすると事務所を閉めた。

鍵は、一番下の守衛さんに渡して帰ることになっている。


「念を押しますけど」

「はい」

「片付いてはいませんから」

「大丈夫ですよ、歩ける場所くらいあるでしょ」

「まぁ、ありますけど」


いつもの電車ではないものに乗り、初めて降りる駅で降りた。

大学生の頃、確かこっちに来たことがあった気がするけれど、

当時とは全然街並みが違っている。


「あの……」

「はい」

「どれくらいかかりますか」

「あぁ、そうですね。ざっと15分くらいあるかもしれません」


三村さんは、毎日コースを変えながら駅まで歩くのだと教えてくれた。

見たことがない形に出会ったりすることで、ヒントが出ることもあると笑う。


「同じことばかりしていると、飽きてくるし、見慣れてしまうと発見しなくなります。
右を歩くか、左を歩くかだけでも、違うものです」

「へぇ……」

「生活の中にある、ちょっとしたヒント。それが自分のプラスになるのなら、
遠回りや逆歩きも、いいかもしれませんね」

「はい」


三村さんの部屋までは、駅から本当に15分くらいあった。

でも、なぜか疲れなかったし、嫌な気持ちもしなかった。

不思議なくらいに……


「着きました、ここです」


到着したのは、オートロックになっている3階建てのマンションだった。




【16-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【千葉汀】
フリーライターの女性。
『ブランチライン』という雑誌の取材で、『DOデザイン』にやってくる。
色々な話題の情報をつかむことが上手く、それを記事にしようと動く。

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