17 心のバランス 【17-3】

【17-3】

幹人も私が顔を上げて、初めて気付いたのだろう。

顔をあわせたとたんに、表情が曇りだす。


「ごめんなさい、私、下を向いていて」

「……いいよ」


手に取ろうとした人形を別の人が取ってしまったため、

私はブースから1歩下がった。幹人はそのまま体を横に向けたが、

こちらに振り返る。


「仕事、まだしているのか」


怒ったまま、無視されるのだろうかと思っていたのに、

そう問いかけられたことが嬉しかった。


「うん、頑張っている。悩んでばかりだけれど……少しずつ前に……」

「いい気なもんだな」


幹人の言葉は、私の発言を遮るようにかぶされた。



『いい気なもんだな』



違っていた……

幹人は、私の今が心配になって、聞いてきたわけではなかった。

目の前に立つ幹人の目は、怒りに満ちている。


「俺は、お前のおかげで人生がメチャクチャだっていうのに、なんだよ、
頑張っている? よくそんなことが言えるな」

「幹人……」


そうだった。あれだけ幹人がこだわっていた『カナダ』行き、

そういえばダメになったって、萩尾さんから聞いていたのに、

私……


「ごめんなさい。でも、私には私なりの……」

「お前に振り回された1年以上の日々が、本当にくだらなく思えてくるよ。
あの1年があれば、俺はもっと色々と出来たはずなんだ」


一年以上の日々……二人が付き合ってきた時間。

それを『くだらない時間』だと、言われてしまった。


「『カナダ』への異動は、見事に別のヤツになった。
営業成績も俺よりも遅れていたくせに、ここで運をつかんで、
一気に前に出て行くだろうな。突然の結婚取り止めだろ。
そりゃ、推薦しようとしてくれていた上司も、みっともないと思うよ。
期待をしている部下が、プライベートでドタバタしていてさぁ。
色々と影で噂をするやつだっているはずだし。だから、そのほとぼりが覚めるまで、
俺は、わざわざ小さな仕事をする営業部にまわされないとならなかった」


影……

確かに、幹人は以前、もっと大きな企業ばかりを担当していた。

『NORITA』のようなところで、仕事をすることはなかっただろう。


「まぁ、来年の春には、元のポジションに戻れることが決まっている。
だから、その間は、仕事とは関係なく、色々と遊ばせてもらうよ」

「遊ぶ?」

「あぁ……営業なんて、そもそもゲームのようなものだからさ。
気に入らない小さな会社なんて、簡単に追い込めるってことだ」


幹人はそういうと、時計で時間を確かめた。

『小さな会社』とは、うちのことだろうか。


「幹人……それって、うちのこと?」

「さぁ……お前に説明しないとならない?」


さぁ……って、ごまかされると、余計にそう思えてくる。


「ねぇ、『NORITA』の場所を広げて、
それでうちの会社を追い出そうとしているの?」

「追い出す? 人聞きの悪いことを言うなよ。俺は普通に営業をしているだけだ。
必要か不要かは、相手の決めることだろう」


そうなんだ……

今まで、長い間取引をしていた『NORITA』が、急にうちの商品を切ってきたのは、

『林田家具』……いや、幹人のしたこと。


「私のことと、会社は無関係でしょ。そんなことをするのはやめて」

「何を言っている、勝手に思い込むなよ」

「でも……」


私のせいで、会社に迷惑がかかる。


「知花」

「何?」

「俺にとっては、お前の会社なんてどうだっていいことなんだよ」

「幹人……」

「俺は……周りの連中に踊らされて、ふわふわしているお前に、
デザインの才能などないってことを、わからせてやりたいだけだ」


幹人は、私の顔を見ながら、唇をかみ締める。

こんな表情、今までに見たことがないというくらい、悲しくて……


「知花は……おとなしく、家庭に入ればよかったんだ」


幹人はそれだけを言うと、背を向けたまま歩いていこうとした。

私は、まだ話をしたいと手を伸ばしたが、他の人たちの動きに阻まれ、

幹人には届かずに、結局手を下ろす。

遠くなっていく背中。追えばまだ追えるかもしれないけれど、



追っても、追っても……



話しても、話しても……



きっと、気持ちが理解されることはないだろう。




【17-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【迫田勝男】
和歌山に住む、知花の祖父。(知花の母、真子の父親)
幼い頃の知花を、よく山に連れて入っていた。
知花が『木』を好きになるきっかけを作ってくれた人。

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コメント

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読んでねてます

こんにちは(゚▽゚)/
幹人に腹をたてながら、読み進める私は、
ももんたさんの思うつぼですが
とにかく毎日楽しませていただいてます。
恋するドキドキはいいですね。(*'‐'*)♪

読んで寝てくださいね

るみなんさん、こんばんは

>幹人に腹をたてながら、読み進める私は、
 ももんたさんの思うつぼですが

あはは……いえいえ、ありがたいです。
ツボだなんて思ってませんから。
毎日楽しんでもらえているのが、とっても嬉しいです。
お話はまだまだ続きますので、どうか、お気楽につきあってください。
コメント、とってもありがたいです。