18 知りすぎた日 【18-1】

18 知りすぎた日

【18-1】

私が『中華まん』を差し入れたため、その日の昼食はいつもより遅めの時間になった。

ランチタイムには満席になる『COLOR』も、客は2、3人しかいない。


「私、『ミニドリア』で」

「あ……私も」

「私は『シーフードサンド』」


それぞれが聖子さんに注文をし終えた後、軽くお冷に口をつける。

優葉ちゃんは、このタイミングを待っていたように、両手を動かした。

注目して欲しいということだろうか。


「何?」

「はい、私、聞いちゃいました」

「聞いた? 何を」

「電話ですよ、電話。ほら、午前中にかかってきたじゃないですか。
三村さんに電話」

「あぁ……」



『古川紗枝』



やはり、三村さんは屋上で電話をかけていた。

よかった、上に行かなくて。


「かけてきた人って女性ですか? 知花ちゃん」

「……ん? うん……」

「あぁ、もう、それなら……うん……」


優葉ちゃんは、ニヤニヤしながら、嬉しそうに頷いている。


「何よ、ちゃんと言わないとわからないって」

「言いますよ、言います。間違いないですよ、その人、三村さんの『婚約者』です」




……婚約者




「は? そうなの? 三村君って、婚約してるの?」

「だって、三村さん話してましたよ、電話の相手に向かって、
『婚約の件は……』って」



『婚約者』



『古川紗枝』さんというのは、三村さんの婚約者。

恋人とか、そういう段階ではなくて、『婚約』という形になっていたなんて。



私が想像していたよりも、事実はもっと先にあった。



「本当なの? 優葉ちゃん」

「本当ですよ。『婚約』って言葉もあったし、『それはまた、部屋で話すから』とか……
絶対に言ってました」

「部屋?」

「そうですよ。部屋で話すって恋人同士じゃないと言わないでしょう」



『部屋』



私が、作品を見せてもらった部屋。

婚約者なら、出入りするのは当たり前だ。

そういえばあの日も、時間が経つことを、三村さんは気にしていた。

私がどうしても見たいと言ったから、見せてくれたけれど、

本当なら、部屋に上げたくなかったのかもしれない。


「本当なの?」

「まだ疑います? どうして小菅さん、信用してくれないんですか?」

「だって……」


申し訳ないことをしてしまった。

いくら賞を取った作品を見たくて仕方がなかったとはいえ、逆の立場になれば、

知らない女性が入り込むのは、いい気分ではないだろうし。


「うーん……三村君にねぇ……」

「小菅さん……どこまでも、そこまでも疑います?」

「疑うというより……」


小菅さんの目が、私の方を見た後、すぐにそらされる。


「私、三村君ってさ、実際のところ、知花ちゃんを好きだと思っていたのよ。
婚約者がいるなんて、思っていなかったわ」



『だから……好きなんですよ』



「あぁ、そうですよね。私も少し思っていましたが……
でも、聞いたんですよ、ハッキリ」


『婚約者』に勝てるような間柄ではない。

少し感じていた思いは、私の勝手な、無責任な思い込み。

私は、沈みそうになる話を、笑って吹き飛ばす。


「全くもう、二人とも妙なことを考えすぎですよ。覚えていないんですか?
三村さんが初めて事務所に来た日。私、思い切りケンカしましたし、
その後だって、頬にビンタしたんですよ。話をすれば言いあいになるし、
水と油なんです。仕事で色々と一緒にいることが多かったことは確かですけど。
もう……聖子さんが『ドレッシング』だなんて、素敵に言うから、おかしくなるんです」


精一杯、必死に繕った。

三村さんの気持ちは、三村さんだけのもの。

小菅さんや優葉ちゃんだけではない。

みっともないけれど、私自身が……勝手に勘違いをしていた。



あの人は、私を見てくれているのではないか……って。



だから、あの日、『古川紗枝』さんの名前を、確認してしまった。



最低……

みっともない……



「聞いてみましょうか、こうなったら」

「ダメよ、優葉ちゃん。三村さん、プライベートなことをあれこれ聞く人が、
嫌いなんだから。千葉さんみたいに、雷落とされるからね」


もういい。

直接、聞きたくない。


「あ……嫌ですよ、あんなふうに怒られるの」

「でしょ。だったら、もうその話はおしまい」

「……はい」


優葉ちゃんは、口をしっかり閉じると、チャックをするというふうに、

指を左から右へ動かした。




【18-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『肉まん』が最初に売り出されたのは、1927年。(今年で100年)
発売したのは中村屋。1月25日は、『肉まん』の日となっている。
理由は、日本最低気温の日にちなんで、温かいものを食べてもらいたいから。

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