18 知りすぎた日 【18-4】

【18-4】

到着して15分もすると、社長のところに挨拶をする人が増えたため、

私はスタッフ用のリボンをつけてもらい、建物の中が見えるような場所に、

一人で移動する。



春には、何もなかった場所に、こうして色々な人の知恵が集まり、

一つの形が完成した。本当の意味で、平面だったデザインが、立体になった日。


「長峰さん」

「はい」


離れたと思っていた千葉さんが、また、隣に立っていた。

賑やかな場所から、少し離れているからか、鳥の鳴き声まで耳に届く。


「また、お話うかがいに行きますね」

「あ……でも、取材はもう終わりですよね」

「今回の『エアリアルリゾート』については……です。
私には、まだまだ続きがあるので」

「続き?」

「はい」


『続き』とはどういうことだろう。

なんとなく自信ありげな顔を見ていると、また問題が起きそうな気がして、

嫌な気分なのだけれど。


「一つ気になることがあると、それがどんどん大きく広がるんです」


千葉さんは、その場で両手を大きく広げてみせる。


「それでは」

「あ、はい」

「まだ、お話をしたいところなんですが、そろそろ行きますね」


千葉さんが苦笑した視線の先には、

私たちが並んでいることを気にしている、三村さんの顔があった。





「皆様のご協力を持ちまして、『エアリアルリゾート』が、新しい安らぎの場所を、
提供できるようになりました」


『エアリアルリゾート』の挨拶があり、中に完成したパーティー会場で、乾杯が行われる。

そこまで必死に我慢していた空は、ついに雨を降らせ始めた。

真新しい窓ガラスに、ついていく雨粒の跡。


「長峰さん」

「はい」


振り返ると、三村さんが立っていた。


「カギ貸してもらいました。完成した部屋、見せてもらいましょう」


三村さんの右手には、1枚のカードキー。


「いいのですか」

「許可はもらいましたから、行きましょう」

「あ、はい」


確かに、知らない人たちが愛想笑いを振りまく場所にいるより、

私には完成した客室の方が、数倍興味の持てる場所だった。

三村さんの後をついていき、3階の部屋へ向かう。


「ここだな」


鍵を差し込み、扉を開いた。

新築の匂いが、私に向かってくる。


「うわぁ……」


前回よりも、装飾品などが全て揃っているからか、豪華さと優雅さが増している。

正面から見た左右対称の形、『シンメトリー』が、

両手を広げて出迎える森の主のように見えた。



何度、言い合いをして、何度紙を破いただろう。

思っていることが形に出来なくて、苛立ちの中でも必死に向かい合った。

70%を目指してしまったら、この先はないと言われて、

0になることを恐れずに、全力で仕事に取り組んだ。



プレゼンテーションでは、頭が真っ白になりながらも、

『木のぬくもり』を心から愛する自分の思いを、表現できた。



苦しいこともたくさんあったけれど、逃げ出したいと思ったことはなくて、

ここまで来ることが出来た。




何もなかった私が、ここまで……

本当に、完成した。




まずい……なんだか泣いてしまいそう。


「どうしました?」

「あ、ごめんなさい。ありがとうございました。いえ、すみません、
いつもいつも同じようにしか言えなくて。でも、本当に三村さんの……おかげです」


そう、この人がいたから、だからここまで来られた。

三村さんの実力と、引っ張ってくれる力とが重なったから。



『デザイン 長峰知花』


この名前を、残すことが出来た。


「俺のおかげではないですよ、長峰さんが自分で頑張ったことです」

「いえ……。自分の実力不足に甘えていた私が、ここまで来られたのは、
三村さんのおかげです」


結婚して家庭に入ってしまえば、

一生味わうことが出来ないと思っていた『充実感』を、持つことが出来た。

そして……また……


「三村さん」

「はい」

「私、もっともっと、仕事がしたいです」

「はい」

「自分の思いを、もっともっと、表現したいです」

「……はい」


そう、あらためてここに誓おう。

私は、ここから生まれ変わって、一歩ずつでもいいから、近付いて行きたい。



一人のデザイナーとして……



あなたに……



「また、前向きになれましたか」

「……エ?」

「脱力感、無くなりそうですか?」


サービスエリアで嘆いたこと、三村さんしっかりと覚えてくれていた。


「はい」


私は、三村さんに向かって、精一杯の笑顔を見せながら頷いた。




【18-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『肉まん』が最初に売り出されたのは、1927年。(今年で100年)
発売したのは中村屋。1月25日は、『肉まん』の日となっている。
理由は、日本最低気温の日にちなんで、温かいものを食べてもらいたいから。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント