19 ぶつかりあい 【19-1】

19 ぶつかりあい

【19-1】

私は何を寝ぼけているのだろう。ここは事務所だった。

幹人はいないし、私は、眠っていて……

そう仕事を、それから……


「風邪……ひくかと思ったので」

「あ……すみません」



『WOLFのメンソール』

そうだ、三村さんの上着。だから……


「これ……」

「余計なお世話でしたね、俺」


眠っていた私に、三村さんが上着をかけてくれた。

染みついていた香り、私……


「……か」



『幹人』



そう、私は『幹人』と呼んでしまった。

『NORITA』で、彼が事故に遭い、怪我をしたと聞いてしまって、

それが気になって……



無意識だったけれど……



呼んでしまった。



三村さんの前で、呼んでしまった……



「長峰さん」

「……はい」

「まだ、気になりますか、別れた彼のこと」


色々なことが重なったとはいえ、三村さんの前で、幹人の名前を呼ぶなんて。

何を言えば、わかってもらえるだろう。

妙な勘違いだけはして欲しくないのに。


「あの、『NORITA』で、他の営業部員の方から、
事故に遭って怪我をしたと聞いて……」


そう、もう私が心配することではないはずだった。

聞いてもどうすることも出来ないのに……


「へぇ……」


へぇ……って。


「いいじゃないですか。、怪我をしているなら大変でしょう。
行ってあげたらどうですか。ここで寝ているよりいいと思いますよ。
気になって仕方がないのなら」

「いえ……」

「今、名前を呼んでました。気になるのなら、行けばいいんですよ。
よりを戻してくれと、頼めばいいでしょう。まだ、間に合うんじゃないかな」


幹人のところへ、私が行く。

それは違う。

私は、勢いだけで別れを決めたわけではない。

自分の見たい景色と、彼の見たい景色が違うことに、気付いたから。


「いいえ」

「無理しないほうがいいですよ」

「無理だなんて……」


無理をしているわけではない。

私だって、真剣に考えて出した結論だった。

それにしても、どうしてこんなふうに、あれこれ言われるのだろう。

三村さんの言葉一つ一つが、耳にからみつくようでうるさい……

横でゴチャゴチャと、雑音のようで。


「明日は、クリスマスですしね。会いたいと思うのなら、いいんじゃないかな」


そう、明日はクリスマス。

三村さん、あなたはそれで浮かれているのでしょうね。

語り合う人がいて、きっと、楽しみなのでしょう。


「そうですね、クリスマスですから。
三村さんこそ、ここで嫌みを言わずに、早く帰ったらどうですか」

「嫌み?」

「そうですよ」


とげとげしい言葉を並べて、嫌み以外に何があると言うのだろう。


「俺はまだ、仕事がありますから」

「仕事?」

「はい」

「それなら、ごちゃごちゃ言わずに、静かに仕事をしてください」


どうしよう。

また、いつかの日のように、気持ちが頭の中と口と、バラバラになっていく。

口が勝手に憎たらしい言葉ばかりを出してしまう。


「ずいぶんひっかかりますね」


ひっかかっているのは、あなたの方です。

私が、どんな気持ちで……


「結婚、取りやめたこと、後悔してイライラか……」

「……さい」

「あなたはまだ……」

「うるさい!」


気付くと両手で机を叩いていた。

バーンという音が、事務所内に響く。

三村さんの顔ではなくて、なんとか頑張って机に怒りを向けた。


「あれこれ人のことに口を出さないで! ズカズカと入り込む人は嫌いだと、
言っていたでしょう。あなたこそ……あなたこそ人のことあれこれ言って、
気持ち、乱して……」


私は見てしまった。

あなたへ手紙を書いた人が、『婚約者』だということを知ってしまったのだから。



知ってしまったのだから……




【19-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
明治時代以降、ヨーロッパの家具に使われていたウォールナット(クルミ科)、
チーク(クマツヅラ科)、マホガニー(センダン科)が『世界三大銘木』と言われ、
特にマホガニーはワシントン条約によって制限されるほど、貴重なものである。

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