19 ぶつかりあい 【19-5】

【19-5】

12月24日、世間的にはクリスマスの本番。一年で一番街がふわふわしている日。


『古川紗枝』さん。

彼女が、三村さんの幼なじみであり、

家族同士の付き合いがある人だということもわかった。


昨日の流れの中で、二人がどういう話し合いをしたのかまで、

聞きだすことはしなかったけれど、今は、そこまで突き詰める必要はない気がする。

私に、気持ちをゆっくり整えていいと言ってくれたのだから、

私も三村さんの言葉を信じて、むやみに気持ちを乱すことはやめよう。




動き出した思いだけ、大切に育てていけばいい……




「あぁ、今日はクリスマスですね」

「そうね」

「小菅さんは、ご主人と豪華ディナーでも?」

「あはは……優葉ちゃん、笑わせてくれるじゃないの。教師である我が主人は、
なぜか忘年会を今日行うのよ、信じられる?」

「今日ですか? それはまた……」

「もうねぇ、夫婦になるとあまりイベント的ではなくなるわよ。
付き合っている間だけよ、記念日をやたらに作って、お祝いするのは」

「そうですか」


優葉ちゃんは、それは寂しいなとつぶやきながら、『エビスパ』をクルクル回し始める。



『知花ちゃんは、どうするの?』



普段なら、こう聞かれるところだけれど、今年は私が一人であることを知っているので、

二人とも何も言わない。


「知花ちゃんは? って、聞いてくれないの? 優葉ちゃん」

「エ……あ、だって……」

「何、知花ちゃん、もう春が来たの?」


小菅さんは、体を前のめりにしながら、そう尋ねて来た。

私は、軽く首を振る。


「そんなに、春がすぐに来るわけないじゃないですか」

「あ、だって、今、聞いて欲しいようなことを言うから」

「二人が驚くかなと思っただけです。
今日はこの後、『浪漫亭』の見学にいかせてもらって、それで終わりです」

「『浪漫亭』? あぁ、あの和洋折衷で話題になった?」

「はい」


そう、洋風のレストランなのだけれど、

畳を敷き、和風の家具を置くというここのところ注目のレストラン。

兄弟で経営しているこのお店は、長男がシェフを務め、

次男が店のコーディネートを一手に引き受けている。


「へぇ、そんなお店があるんですか」

「確か、お皿も全て焼き物なのよね」

「そうなんです。今日は工場の方を見せてもらおうかなと」



……と、二人に話すのはここまで。



「よく、見学に行けるわね、この時期に。知花ちゃん、お知り合いだったの?」

「いえ、三村さんです。以前、桐箪笥の見学をさせてもらった戸波さんのお知り合いで、
私が興味があるのでとお願いしたら、どうぞってことで」

「へぇ……三村君」

「はい」


いつもなら、三村さんと私がどうのこうのと余計な言葉をつけてくる二人だけれど、

この間の『婚約者』というキーワードが出てから、言われなくなった。


「仕事ですけれど、でも、私にとっては最高のクリスマスになります。
見たいものが遠慮なく見られるのだから」


そう、それはウソではない。

家具を見たり、インテリアを見たりしている時間は、

どんなに長くなっても全然苦にならない。


「そうよね。なんだろう、私たちってさ、
いつまでも子供のように夢中になれることがあるんだよね、こういう仕事をしていると」


そう、子供のように時間が経つことも気にならないで、

何かに没頭できるのは、こういう仕事ならではかもしれない。


「エヘン、それならば、遠慮なく」

「何よ」

「ジャジャーン!」

「あら……」

「自慢してもよろしいでしょうか、みなさま。
私、彼からもらったのです。キラン!」


優葉ちゃんは、『フラワーショップ』で働く彼から、

指輪をもらったと嬉しそうに見せてくれた。

シルバーに光っていて、かわいらしいデザイン。


「おぉ、やるねぇ、彼。これ結構しそうじゃない」

「でしょ? 彼にしたら、とっても頑張ったものなのですよ。
だから今日は一人だけれど、平気なのです」

「何よ、一人一人って。当たり前なのよ。人はね一人で生まれて一人で死んでしまうの。
もう、クリスマスって騒ぎすぎなのよ、世の中が」

「それは極端ですよ、小菅さん」

「はいはい、みなさん……」


『エビスパ』を食べ終えたテーブルの上に、小さな『カップケーキ』が3つ並んだ。

私たちは揃って、運んでくれた聖子さんの方を向く。


「どうしたんですか、これ」

「今日は特別。みんなへプレゼントよ」

「エ……本当ですか?」


カップケーキには、小さなチョコの飾りが、いくつかついていた。

ほんの数口で食べられそうだけれど、その気持ちが嬉しい。


「ありがとうございます」

「いえいえ。小菅さんは、これからもご主人と素敵な毎日が送れるように、
それから、優葉ちゃんは彼と益々、ラブラブな毎日が続くように……
それと知花ちゃんは……」


私は……


「知花ちゃんには、来年こそ、素敵な出会いがありますように」

「ありがとうございます」


聖子さんのお気持ちをみんなでいただき、その日のお昼休みを終えた。




【19-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
明治時代以降、ヨーロッパの家具に使われていたウォールナット(クルミ科)、
チーク(クマツヅラ科)、マホガニー(センダン科)が『世界三大銘木』と言われ、
特にマホガニーはワシントン条約によって制限されるほど、貴重なものである。

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コメント

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少しずつ

拍手コメントさん、こんばんは
拍手コメントを、非公開で残してくれた方には、
このような表現でお返事を書いています。

知花、少しずつしっかりしてきましたか?
そう感じてもらえたら、嬉しいです。
仕事の結果が少しずつ出てきたことが、大きいのかな。
人って、認められると、強くなれますからね。

これからも、ぜひぜひ、楽しんでください。