20 別れの挨拶 【20-4】

【20-4】

『終わったら、駅前の喫茶店で話せないか』



幹人の話とは、どういったことだろう。



以前、展示会で会ったときより、口調も表情も穏やかに思えたけれど、

それでも不安はぬぐえない。

結婚を取りやめた後、予想外の出来事が積み重なっている幹人は、

次は何を私に、言うつもりだろう。




私は、その言葉を黙って受け流すことが出来るだろうか。




「『DOデザイン』さん、いやぁ、今日は申し訳ありません」

「いえ」


愛想笑いを浮かべた『NORITA』の部長さんを前にしても、

頭の中の半分以上は、幹人のことで埋まっていた。


「売り場を拡大?」

「はい。こちらの都合で、売り場を縮小しておいて、
本当に失礼な話しだとは思うのですが、
実は、こちらとしても予定外のことが起きまして。
ここは、これからもお付き合いをさらに発展させるということで、
『DOデザイン』さんには、失礼な話でも、広い心で飲み込んでいただきたいなと」


以前は、『林田家具』のシリーズものを入れる目処が立ち、

少しずつ他の売り場を縮小したいという話だったのに、

今日は180度違う内容に、どう返事をしていいのかわからなくなる。


「あの……ここには『林田家具』のシリーズが入るのですよね」

「それがですね」


今、少し前に来ていた幹人は、確かに『NORITA』に寄っていた。

入れると約束していた、商品の数が揃わないため、

計画を練り直したいと、いきなり方向転換されたことを話してくれる。


「方向転換ですか」

「まぁ、ようは断られたのでしょう。
やってみましょうと気持ちだけは前に出したものの、
うちでは売り上げの総数がそれほど確保できないとか、
なんだとかかんだとか……」


部長さんは、大手は結局、販売力があるので、平気で中小企業を振り回すのだと、

少し不満げにそう愚痴をもらした。

私は売り場拡大は、幹人が率先して進めたものだと思っていただけに、

仕事がうまく行かなくなったとなると、

さらにこの後の話し合いが不穏なものになりそうで、気が重くなる。


「とにかく、今までの商品ももちろんこのまま。
それから新商品のスペースも必ず確保しますので」


決して、私たちの商品が大手に勝てたと言うわけではない。

それでも、やはり『エアリアルリゾート』のことは、当たり前のように話題に上がり、

千葉さんが取材をしてくれた業界誌の影響が、出た結果となった。

新しい販売方法を取り入れようとしている『DOデザイン』だけれど、

大きな拠点を失わずに済んだのは、本当によかった。


「それでは、試作品が出来た段階で、またご連絡します」

「よろしくお願いします」


部長は、お茶を出してくれた女性の社員と、配置転換になった若い営業マンを横に立たせ、

揃って頭を下げてくれた。『NORITA』には何度か足を運んでいるが、

今までで一番丁寧な対応を受けた気がする。

しばらく歩いた後、振り返った場所にまだ部長がいることに気付き、

私は、慌てて頭を下げた。





『瑠璃』


駅の真向かいにある喫茶店。おそらく幹人はここにいるだろう。

わかったと頷いたのだから、逃げるわけにもいかない。

腕時計で時間を確認すると、素早く話し合いを済ませてきたつもりだったが、

私は『NORITA』に1時間近くいたようだった。

私が扉を開けて店の中を見ると、幹人が手帳を広げているのがわかる。

ウエイトレスの声で顔をあげ、こちらに気付くと軽く左手を上げてくれた。


「ごめんなさい、ずいぶんと待たせてしまって」


素早く上着を脱いで、片手に持つ。

テーブルの上には、『WOLFのメンソール』のボックスが置かれ、

灰皿には、2本の吸殻があった。


「いや、待つと言ったのはこっちだからいいんだ。
知花にとってはいい話し合いになっただろ、『NORITA』さんと」

「……うん」


幹人はそうだろうねと言いながら、先に頼んでいたコーヒーを飲み干し、

注文を取りにきたウエイトレスに、さらにブレンドを頼んだ。

私も同じようにブレンドを頼み、バッグを横に置く。


「『林田家具』に何かあったの?」

「何か? どうして」

「『林田家具』のシリーズが入らなくなったって」

「あぁ……そのことか。うん、計画を変更して、入れられなくなったんだ」


話がスタートしても、幹人の口調は、落ち着いたままだ。

表情も、鋭さはなく、優しい。


「計画の変更?」

「うん……」


また、幹人の回りは、何か動いたのだろか。


「知花……」

「はい」

「せっかく向かい合って話しているのに、そんなに緊張した顔、しないでくれよ」

「……うん」


緊張……していないと言えばウソになるだろう。

この間の出来事が、あのキツイ言葉が、まだ頭から抜けていない。


「まぁ……でもそうなるよな」


幹人は小さな声でそういうと、少しだけ笑ってくれたように思えた。




【20-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
知花の祖父がいる『和歌山県』。
梅やみかんの生産量が多いなのは有名だが、
実は『麻雀パイ』(御坊市)も1番。他にも碁石やサイコロも生産量が多い。

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