22 ランチのあとで 【22-2】

【22-2】

「いやぁ……戦ってますね、二人は」

「バチバチしてましたからね、近付きにくいですよ」


その日の昼、私たちは揃って『COLOR』へ向かった。

優葉ちゃんも、空気が緊張していると大きく息を吐く。

私は思わず、この間三村さんがよく居眠りをすると聞いた、奥のソファーを見てしまう。

今日は、空席。


「聖子さん、私『とろりんオムレツ』」

「あ、私は『シーフードドリア』」

「それなら私も……」


それぞれが注文を済ませ席に着くと、話は自然に事務所内のことに戻っていく。


「それにしても、たいしたものよ三村君は。まだ、うちに来て1年経っていないでしょ。
それなのに伊吹さんと堂々とやりあえるわけだし」


私は、お冷に口をつけながら、小さく頷いた。

そう、私自身、今の小菅さんと全く同じ事を思っていたから。

伊吹さんは、もうこの業界で相当のキャリアを積んでいるし、

作りあげた作品数も、私たちはとても及ばない。

『DOデザイン』という会社を、ここまで押し上げてきたのは、

社長と伊吹さんの両輪が、うまく回ったことなのだろうとそう思う。


しかし、この1年の間で、三村さんは関わった仕事全てに結果を出し、

この春には、彼を名だしで指名してくる客も出てきた。

今回の大きい仕事の担当に、伊吹さんと三村さんを社長が選んだのも、

そういった功績があるからだろう。


「でも、あれだけガンガン言われてしまうと、彼女なら萎縮しちゃいませんか?
私は三村さん、無理です」


優葉ちゃんはそういうと、私と同じようにお冷を一口飲んだ。

そう、私と三村さんが実はこっそり、ひっそりとお付き合いを始めているということ、

事務所の人は、まだ誰も知らない。


「あ……優葉ちゃんはそう見るわけ? 私は逆だなぁ」

「逆?」

「そう。あぁいう強気に出るタイプに限って、自分が好きだと思う人には、
とことん甘かったりするのよ」



三村さん、甘くしてくれているだろうか、私に。

今のところ、仕事では手厳しいけれど、確かに、フォローはいつもしてくれる。



「そうですかねぇ……三村さん、恋人にも、自分の意思を押し通しそうですけど」

「いやいや……ねぇ、知花ちゃんもそう思わない?」


そうって……


「は? 私ですか?」


小菅さんの急なフリに、一瞬頭が真っ白になった。

何をどう言えば、返せばおかしくないだろう。


「何を考えていたのよ、知花ちゃん」

「あ、いえ、その……」


すみません。すっかり自分のことを、考えていました。


「そういえば、三村さんの『婚約者』話は、どうなったんですかね」

「どうなったって、どういうこと?」

「あ、だから、順調に進んでいるのなら、どこかで結婚の話題にもなりそうなのに、
何も出ませんから」

「あぁ、そうよね、そういえば」


優葉ちゃんが話題をそらしたので、私も何も知らないふりをして、言葉を挟んでみた。

その瞬間、前に座っている小菅さんと目があってしまう。



なぜか、合ってしまった。



「やだ、『婚約者』の話、信じてるの? 知花ちゃんも」

「……信じてるって、だって……」



信じていませんけれど。

でも……



「あ、どういう意味ですか小菅さん。私の情報がガセネタとでも言うのですか?」

「いえいえ、そうではないわよ。
でもさ、今の三村君に結婚が近そうな雰囲気は全くないから」


バイトの男性が、私たちの前にランチのサラダを3つ置いてくれた。

優葉ちゃんが素早く、それぞれの前に置きなおしてくれる。


「……振られたんですかね、もしかして」

「さぁ、どうでしょうね」

「あぁ、振られたのかもしれないですよ。なんかそんな気がする」

「どこからそうなるのよ」

「三村さんあてに、そういえば、電話もないです」


優葉ちゃんは、お付き合いが続いているのなら、連絡くらいあるだろうと、

サラダにフォークをさし、食べ進めていく。


「私が思うに……おそらく」


優葉ちゃんは、自分の考えだけれどと前置きをし、三村さんはすでに破局し、

『婚約』もなくなったのではないかと、勝手に結論付けた。

三村さんのことを話している間に、私たちの前にはそれぞれ注文したものが運ばれる。

私は『ドリア』を食べるために、スプーンを持った。


「きっと振られたんですね、だから仕事に邁進状態なんだ。
俺にはこれしかないって」


優葉ちゃんは、そう自分に言い聞かせるように話を終えると、

スプーンでオムレツをすくい、口に入れる。



『長峰さんたちのように、どうでもいい話を、とんでもなく膨らませているのは、
営業妨害にならないのかな……』



確かに、どうでもいい話を、とんでもなく膨らませていると思うと、

おかしくなってきた。女同士の話って、こんなことが多い。

三村さんは振られたわけではないけれど、まだ、ここでは何も言わないことにしよう。

知りすぎている人たちだからこそ、付き合いにくくなりそうな気がしてしまう。


「あぁ……美味しい、これ」

「いつも食べているでしょう」

「久しぶりですよ、私」


それからは、テレビの話題に切り替わり、私たちはどうでもいい話を、

またたくさん膨らませた。




【22-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
チェストとは、引き出しのついたタンスなどの収納家具を示す。
それに対してキャビネットとは、扉のついた収納家具になる。
人気なのは、ガラス付きのものが多い。

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