22 ランチのあとで 【22-4】

【22-4】

「もしもし……」

『あ、知花ちゃん。お疲れ様です』

「あ、うん。どうしたの?」

『あのですね……』


優葉ちゃんの話によると、私たちが出てからすぐ、

事務所にフリーライターの千葉さんから連絡が入ったのだという。

千葉さんは、すぐに三村さんがいるかいないかを聞いてきたと、

優葉ちゃんは笑い出す。


「千葉さんが? なんだろう」

『そうなんです。知花ちゃんに連絡を取ろうとしたけれど、
携帯知らないからって事務所に。どこに出かけたのかと聞かれて、
『NORITA』だって言っちゃいましたけど、いいですよね』


私はそれは構わないけれどと、優葉ちゃんに答えた。

別に隠し事をするような仕事ではないし、

だからといって、取材してもらえるような話でもないけれど。


『そうしたら、知花ちゃんに用事があるって、
で、6番の出口前で待っているからと伝えてくれって』

「6番?」


地下鉄の駅を降りて、事務所に戻るときに上がってくる階段が6番階段。

とりあえず、私はわかったと返事をし、受話器を閉じた。

今更、千葉さんが何のために来るのだろうかと思ったけれど、

ちょうど次の電車がホームに入ってきたので、私はそのまま車内に乗り込んだ。





6番階段。

ゆっくりと上がっていくと、出口のところに千葉さんが立っていた。

私を見つけると、嬉しそうに階段を下りてくる。


「こんにちは長峰さん」

「あ……はい」

「事務員さんから、連絡入りました?」

「はい」

「ならば、よかった。お願いがあるのですよ」


千葉さんは、これから一緒にとある企業へ顔を出してくれないかとそう言い始めた。

私は、どこに行くのかと、当たり前の質問を返す。


「『MARBLE』です」

「『MARBLE』? って、あのエステで有名な?」

「はい。実は、『園田建設』の西伊豆にある保養所。『MARBLE』が買い取った話、
ご存知ですか?」


建設大手の『園田建設』だが、業績悪化もあり、施設をいくつか手放したのだと、

確か先日の経済新聞に書いてあった。色々な会社が手をあげた中で、

姉妹で経営する『MARBLR』が買い取ったという話題は、

確かに世の中を賑わした。


「それが、何か」

「『MARBLE』はその保養所を、
『特別なエステ』として経営することにしたようなんです。
温泉も出ますし、食事も美味しいし、海も見える。さらにエステが入れば、
少し自分にご褒美を与えたいと思っている女性たちの、指示を取れるのではないかと」


千葉さんは、説明しながらも、私を少しず駅の方へと引っ張っていく。


「いや、それが何か」

「私、『MARBLE』の方と、以前仕事で縁がありまして。
で、今回もちょっと絡めてもらいたいなと思っているんですよ。
そうしたら、『MARBLE』側から、『エアリアルリゾート』の記事を見たと言われて、
仕事をした人を知っているかと聞かれました。で、もちろん『はい』と答えたんです」


千葉さんが書いてくれたあの記事を見て、私たちに興味を持ってくれた。

私と三村さんが取り組んだ仕事を、評価してくれたということだろうか。


「色々な企業が絡んでくることは間違いないほどの、プロジェクトです。
今、早めに顔を出しておいて、何か先につながればと……
『DOデザイン』さんにとっても、悪い話ではないでしょう」


確かに、話を聞いておいて、損はないかもしれない。

いきなり尋ねていくことなど出来ないのだから。


「これから、行きましょう」

「これから?」

「はい。向こうは今、色々と探っている時期なんですよ。
正式に発表されてしまってからだと、動けませんから、ね、行きましょう」

「あ、でも……」

「会ってくれる女性も、私たちと同じ世代の人です。ね……長峰さん」


私自身が手がけた仕事で、新しいものを生み出せるかもしれない。

今まで、お世話になりっぱなしだった会社にも、何か貢献できるかもしれない。

私は、そう思い、千葉さんと一緒に『MARBLE』へ向かった。





『MARBLE』

元々は、現在の社長と副社長の祖父が、

小さな美容、理容で扱う商品を卸す会社を始めたのだが、

35年前に父親がエステの会社を興し、そこから業績を上げ始めた。

15年前には娘たち二人が経営者となり、

今話題になっている美肌効果のある飲み物なども、飲料メーカーと提携し、

積極的に売り出して始め、現在、社員たちはアメリカで最新技術を学び、

業界を引っ張っていく存在になった。

千葉さんの勢いに、そのままついてきてしまったが、

いざ、本社ビルを前にすると、圧倒される大きさがある。

こんな気持ちで、入っていいのだろうか。


「行きましょう、忙しい方ですから」

「……はい」


『エアリアルリゾート』の仕事が出来たのだから、それを評価してくれているのだから、

私なりに語ればいい。

女性のいる受付前に立つと、千葉さんが名刺を出し、私たちはすぐに奥へと通される。


「今日は応接室だそうです」

「あの……千葉さん」

「長峰さんは、そのままで大丈夫ですよ。本当に会いたいと言われていただけですから」



会いたい……



「わかりました」


私はエレベーターに乗り込み、速くなる鼓動を精一杯抑えるために、

何度も大きく息を吐いた。




【22-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
チェストとは、引き出しのついたタンスなどの収納家具を示す。
それに対してキャビネットとは、扉のついた収納家具になる。
人気なのは、ガラス付きのものが多い。

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