23 真実のネタ 【23-1】

23 真実のネタ

【23-1】

『株式会社 MARBLE』

そこには、私の知らないことが、たくさんあった。

三村さんが三村さんではないこと、そして、古川紗枝さんという女性は、

何事もハッキリ人に言える、私とは違うタイプの人だということ。


「大学の勉強を終えてからも、しばらくはアメリカで色々と学んでいたの。
その間に、折原家のゴチャゴチャは解決するのかと思っていたけれど、
そうはなっていなかった。だから私、日本に戻ってきて、
紘生が『DOデザイン』というところにいることも知って、で、手紙を書いて……」


そう、手紙。

私がこっそり裏を見てしまった、あの手紙のことだ。


「この間、久しぶりに二人で会った。賞を取ったっていう作品も見せてもらったし、
色々と楽しい話もして、何年も会っていなくても、さすがに私と紘生は話があうって、
そう実感してね」


私が見せてもらったあの作品を、紗枝さんも見ていた。

それならば、三村さんがデザインに才能がある人だということくらい、

理解してくれただろうか。


「その時に、あなたの名前が出たの。長峰知花さん」


扉がノックされ、声がする。

秘書の人だろうか、3つのコーヒーが運ばれてきた。

それぞれの前に黙って置くと、邪魔をしてはいけないと思っているのか、

すぐにまた出て行ってしまう。


「どうぞ、冷めてしまうから」

「ありがとうございます」


千葉さんは、全てを知っているのだろうか。

紗枝さんの話を聞いていても、何も動じることがない。


「自分にとって、色々な部分で刺激になる人だって、そう言っていたわよ、紘生」


私のこと……


「自分の人生に、必要な人だって……」


三村さん、私のことをそう話してくれていた。

私が聞いたときには、あまり細かく語ってくれなかったけれど、

きちんと……


「そこで初めて私も気がついたの。これは紘生が本気だって。
今までは、時間が経てば、自分の立場を理解し、
経営に戻ってくるはずだってそう思っていた。
でもね、応援してくれる人がそばにいたら、それは無理でしょう」


応援する人。

微妙な言い方だけれど、違うとは言えない。


「あの紘生がね、そんなふうに女性のことを話したことなんてないから。
まぁ、親同士が親しくて、私たちは、あらためてプライベートのことなど
語ることがなかったということだけれど、私が知っている紘生は、どちらかというと、
何に関しても淡々としているイメージだった。
やるべきことをやって、周りとうまく合わせて生きていけるような……
だから、結婚も人生のただの一部くらいにしか考えていないのだろうなと、
私勝手に思っていたところもあって、正直驚いたのよ」


紗枝さんと千葉さんのコーヒーは、確実に量を減らしているが、

私は口をつける気にとてもならない。

嘆きや苦しさを床に落とさないことだけで、精一杯だ。


「さて、長々と語ってしまってごめんなさい。
今までは、幼なじみだし、紘生に何でも言えると思っていた私ですが、
本人に大事な人がいると言われてしまった以上、これはあなたに頼むしかないと思い、
ここに連れて来て欲しいと千葉さんにお願いしたの。これから話すことのために……
ね、そうでしょ」

「はい」

「あなたに、紘生を説得して欲しいのよ」


説得?

私に、三村さんを『折原製薬』に戻せと、そう言いたいのだろうか。


「あの……」

「勘違いしないでね。会社へ戻れと言いたいわけではないのよ。
紘生の生活ぶりを見ていたら、それは難しいだろうなということくらい、
私にも十分わかるから。今日はそういうことではなくて、
紘生におじ様に頭を下げて欲しいと、そう言いたくて」


迷惑をかけてしまったお父さんに、申し訳ないと謝ること。

紗枝さんはそれをしないとならない理由があるのだと、

残りのコーヒーを飲み干していく。


「おば様がね、体調を崩してしまったの。まぁ、昔から体が丈夫な人ではなくて、
紘生が飛び出してしまったときにも、寝込んでしまったけれど、
もう何年も家に戻らないし、おじ様とは全く仲を戻す努力もしないし、
それで先日、心労からまた入院してしまって」

「入院?」

「そう……『折原製薬』は一族で会社を経営しているでしょ。
それぞれの跡取りの中で、会社に関係ないことをしているのは、紘生だけなのよ。
嫁に来たおば様にとっては、肩身が狭いというか……」


三村さんの事情。

家族がそっぽを向いたままで辛いというお母さんの気持ちは、私にもわかる。

出来たら、家族は笑いあえた方がいい。


「紘生がおじ様に謝りさえすれば、話はまた動くと思うのよ。
とにかく、今のままだと、おば様は益々具合を悪くしそうだし、
紘生だっていい状態だとは言えないでしょ」


紗枝さんの言いたいことはわかる。

でも、あの三村さんを私が説得するというのは、

どこか違っているような気がしてならない。

私が知っているのは、デザイナーとして優れた才能を持っている三村さんで、

折原紘生という、跡取りではない。


「申し訳ないですが、私には無理です」

「無理? どうして」

「私には、三村さんは何も話してくれていません。
今ここで聞いたことをすべて持ち帰り、事情をよく知らないのに、
ただ謝れというのは……」


絶対に跳ね返される。


「無理?」

「はい」


紗枝さんは少し表情を変えた。




【23-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【古川紗枝】
エステ業界で売り上げを伸ばす『MARBLE』、副社長の娘。
アメリカへ留学経験を持ち、食生活やエステの勉強を何年かし、日本へ戻る。
紘生とは母親同士が同級生で、兄妹のように育つ。

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